マーティ・フリードマン×萩原健太が語る、クイーン後期の変貌と80's音楽シーンの潮流

M・フリードマン×萩原健太が語るクイーンの変貌

 タワーレコードが開催するセミナー「タワーアカデミー」の人気企画で、QUEENを題材にした『ボヘミアン・ラプソディ』のPart.3とPart.4が、9月7日に東京・音楽の友ホールで開催された。ディスクジョッキーの矢口清治が進行を務め、前回のPart2にも出演している音楽評論家の萩原健太が解説、Part3のゲストにはギタリストのマーティ・フリードマンが登壇。そのPart.3では、1978年にリリースされたアルバム『Jazz』から1984年の『The Works』までの時代をテーマに、総額数百万円のオーディオで代表的な楽曲を聴きながら、時代の空気感や楽曲の魅力を伝えていくというもの。マーティの歯に衣着せぬストレートなコメントに、来場者は「分かる分かる」とうなずきながら、トークと共に珠玉のナンバーを楽しんだ。(関連記事:ROLLY×萩原健太が語る、世界を魅了し続けるクイーンの偉業「違和感のようなものが彼らの本質」

洗練とワイルドがせめぎ合った1980年代のQueen

 1980年前後の時代について萩原は、「ディスコが流行りパンクが生まれ、TOTOなどのヨットロックが人気を博した。ロックがビッグビジネスになり、ロックに対する要望もどんどん増えていった」と、ロックシーンに転機が訪れたことを解説した。例えばMVの存在が人気を左右する重要な要素になったこともその一つで、それについてマーティは「MVがロックを完全に殺した。ロックが水割りになった」と、笑いを交えながらも、「予算、イメージ、偉い人の意見が何より重視された。ハードロック好きの連中は、僕も含めてみんながっかりした」と、当時のシーンに辛辣だ。萩原は当時MTVの日本版番組でMCを務めており、「ファンクバンド・ZAPPのロジャー(・トラウトマン)がゲスト出演してくれたことがあった。アメリカでは出してもらえなくて、日本で出られたことが嬉しいとすごく喜んでいた」というロジャーのエピソードを引き合いに出し、アメリカの音楽シーンで当時起きていた変化を説明した。

 また、デジタルレコーディングが導入されるようになったことも、1980年前後の大きな変化の一つだと萩原は続け、それは結果的にQueenの魅力を失わせることに繋がったと指摘した。そんなレコーディング技術の変化にまだ抗っていると感じるさせるのが、1978年に発売されたQueenのアルバム『Jazz』だという。

Queen - Don't Stop Me Now (Official Video)

「『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれていたが、70年代のQueenは、メンバー3人が一つのマイクに向かって歌い、それを何重にも重ねていた。80年代はそれが1人でできてしまうようになり、個人でレコーディングするようになっていったことで、バンドとしての魅力だった“一体感”が薄れていくことになる。しかし、それでもまだ『Jazz』の頃は、“みんなでやってる感”があった」(萩原)

 同作からは、フレディのエモーショナルなボーカルと巧みなコーラスワークが聴きどころの「Don’t Stop Me Now」を、ゴージャスなオーディオセットで流し、「6度コードの7th。CARPENTERSが使いそうなコーラスがいいね!」と萩原。来場者も目を閉じて聴き入った。

「地獄へ道づれ」は、新しい時代を生み出した

 続く1980年の『The Game』は、マーティが好きな作品だとのこと。「僕の思い出がいっぱい詰まっている作品。ラジオでも毎日のように流れていた。妹も好きな作品だった」と、それが当時の自分の人生のBGMだったと話した。

 萩原によれば当時は2つの流れがあり、一つはディスコが流行ったことによってどんどん洗練されていった流れ。もう一つは、パンクが流行ったことで、ワイルドに立ち返っていった流れ。「それらをQueenがどう突き詰め考えていったかが、この『The Game』というアルバムに表れている」と解説した。

Queen - Another One Bites the Dust (Official Video)

 同作の代表的なナンバー「Another One Bites the Dust(地獄へ道づれ)」は、ディスコのリズムを大胆に取り入れた。萩原は、メンバーからは賛否があったが、マイケル・ジャクソンの薦めもあってシングルカットされることになったという経緯に触れながら、「結果として新しい時代を生み出していく人に影響を与えた曲になった」と、その後の音楽シーンを決定づけるものだったと話した。

Queen - Crazy Little Thing Called Love (Official Video)

 また「Crazy Little Thing Called Love(愛という名の欲望)」のロカビリーを取り入れたサウンドについては、「パンクのバック・トゥ・ワイルドの精神をQueen流のやり方で表現したもの」とし、「この曲のポップさには、日本の多くのバンドが影響を受けました」と萩原。マーティは、エルビス・プレスリーなど1950年代の音楽が好きだったとのことで、しかし当時は周りからはなかなか理解されなかったと話し、「でもこの曲がヒットして、ざまあみろ! と思った」と、当時を振り返る。「60年代のプレスリーの声が優しくなった感じと、50年代のコーラスが合わさっている曲」(マーティ)。「ゴスペルのコーラスには、シャレ心を感じる」(萩原)

 また「Play the Game」は、マーティもカバーしたことがあるとのこと。「Queenが冒険していた時代と、日和ってしまった時代の両方の感覚が上手く混じっている」(マーティ)。

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