ROLLY×萩原健太が語る、世界を魅了し続けるクイーンの偉業「違和感のようなものが彼らの本質」
タワーレコードが、次世代のエンターテック人材の育成・輩出なども視野に入れて始動した新プロジェクト・TOWER ACADEMY。クリエイターとリスナーの垣根を越えて、音楽やエンターテインメントのつくり方、楽しみ方をアップデートする体験を提供する同プロジェクトにて、音楽・映画連動企画講座『ボヘミアン・ラプソディ』のPart.2が6月29日、東京・神楽坂の音楽の友ホールで開催された。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』のBlu-ray/DVD やQUEENのアルバムなどを販売する特設ブース、20世紀フォックス提供の撮影用フォトパネルなどが併設された会場は満員の盛況ぶり。その半数がリピーターということからもファンの熱気が伝わってくる。初期3枚のアルバムを取りあげたPart.1(4月6日開催)に続いて、この日の講座ではQUEENが英国の人気バンドから、世界的バンドの座へと上り詰めた時期にあたる、4枚目『オペラ座の夜』(『A Night at the Opera』/1975年)、5枚目『華麗なるレース』(『A Day at the Races』/1976年)、6枚目『世界に捧ぐ』(『News Of The World』/1977年)の3枚のアルバムについて、その当時の時代背景なども盛り込みつつ、詳しく掘り下げられていった。
13時ちょうど、開講のチャイムと共に前回と同じく、司会進行役の矢口清治が登場。まずは会場の音響システムの説明から。スピーカーはMONITOR AUDIO(モニターオーディオ)社、アンプとCDプレイヤーはROKSAN(ロクサン)社と英国メーカーにこだわって最上級のオーディオがセッティングされ、最高のサウンドでQUEENの音楽を楽しめるのが、本講座の魅力のひとつである。
そして今回のキーワードは「コーラス」と「ギター」ということで、それぞれスペシャルな専門家が登壇。音楽評論家でコーラス研究家でもある萩原健太は、3枚のアルバムがリリースされた1970年代半ばのミュージックシーンを以下のように総括する。
「60年代アメリカのカウンターカルチャーを象徴するイベント『ウッドストック・フェスティバル』が1969年に終了し、ロックで世界を変えられるという共同幻想が薄れつつあった“あきらめ”の時代。それに代わって米国では、より個人的な“君と僕”のことを歌ったシンガーソングライターが台頭。英国には退廃的なグラムロックが現れた。そして1975年頃になると、音楽ビジネスのシステムが確立。商業的でより“売れる”音楽が求められるようになり、シンプルに若者の感情を発露した楽曲よりも、もっと作り込んだ緻密なサウンドが好まれるようになった。そういう背景があったからこそ、QUEENもあれだけ中身の詰まった精緻なアルバムをリリースすることができたのだと思う」【萩原】
続いて、当時は小学生だったという、ボーカリスト/ギタリストで海外ロック通、とりわけQUEENの大ファンとして知られるROLLYが登壇。時にギターを奏でて実況を交えながら、その馴れ初めについて以下のように語った。
「自分たちが普段聴いている音楽を教室で発表して、みんなで聴くという授業が小学生の頃にあって。クラスメイトのイトウくんが『オペラ座の夜』のLPを持って来たんです! 僕はそれまでQUEENを聴いたことがなかった。どんな音楽やろ、と思っていたら1曲目の「Death on Two Legs」から耳が釘付け。目の前に、霧に佇むヨーロッパの古城の、暗い螺旋階段を地下まで降りて行って、そこの扉を開け放したような、今まで見たこともないような風景が思いっきり広がった。そして2曲目の「うつろな日曜日」(「Lazing on a Sunday Afternoon」)でも人生が変わる衝撃を受ける。まるで白黒の無声映画を観ているように、リゾート地で貴族が縞々の水着で体操して、その横をプードル連れの貴婦人が散歩しているような、そんな映像が浮かんで、もう、たまげました(笑)」【ROLLY】
第1時限目
まずは「Bohemian Rhapsody」を生んだアルバム『A Night at the Opera(オペラ座の夜)』(英国:1975年11月22日、日本:1975年12月21日 発売)を徹底解剖。なお、当時の音楽シーンがイメージできるように「1975年の日本における洋楽ヒット」として、オリビア・ニュートン=ジョン「そよ風の誘惑」(「Have You Never Been Mellow」)、ブルース・スプリングスティーン「明日なき暴走」(「Born to Run」)、10cc「I'm Not in Love」、ミニー・リパートン「Lovin' you」などの聴きどころを繋げた、タワーアカデミー特製のメドレーも流された。
「この時代、レコーディング技術も飛躍的に進歩。60年代のThe Beatlesなどの4チャンネルに対して、QUEENは24チャンネルを駆使しつつ、それでもまだもの足りなくて、さらに理想のサウンドを目指して格闘していた。まさに、マルチトラック技術と人の力の合わせワザ。その例が、自分のようなマニアからすると、画期的な多重コーラス。何も省かないで入れる、全部のせの凄まじく濃厚なコーラス」【萩原】
「当時のレコーディング技術くらいなら、今では誰でもノートパソコンがあればできる。でも、あのQUEENのぎっしりと詰まったサウンド、人を不安な気持ちにさせる音階、トップにメロディを置いて、下をフレディ・マーキュリーの魅惑の低音が支えるあのユニークなコーラスは、誰にも真似できないはず」【ROLLY】
このアルバムから萩原が敢えて選んだ1曲は、当然「Bohemian Rhapsody」。会場は最高級のオーディオが奏でるこの世紀の名曲に静かに耳を傾けた。
「やはり、ブライアン・メイの個性が際立ってます。こんな風にギターを弾いた人はいなかった。独特のタイム感、チョーキング(弦を持ち上げて音程を上げるギター奏法)もユニーク」【ROLLY】
「チョーキングは普通、音の上げ方にこだわる人が多いけれど、ブライアンは下げ方のニュアンスが独特」【萩原】
「しかもその上げるスピードが誰よりも遅い(笑)。加えて(お母さんが家の小瓶に貯めていたという)6ペンスコインを使ったピッキングの妙。ピックが小さいので弦に指がちょっと当たって、あの味が出る。しかもギターはお父さんと一緒に手作りしたレッドスペシャル。そんなギタリストが他にいますか?(笑)」【ROLLY】
ROLLYが、ブライアン・メイのギタープレイの特徴を解説しながら、実際に6ペンスコインとピックでの実演を披露。プロの生演奏によってそれぞれの音色の違いを生で体感した客席からは大きな拍手が起こる。座学だけでなく、実際に音楽体験から知識を深められることは、この講座の醍醐味とも言えるだろう。