パスピエ、高度な演奏技術が可能にする芸術と娯楽の融合 『more humor』ツアー最終公演を見た

パスピエが追求する芸術と娯楽の融合

 今年5月に5枚目のフルアルバム『more humor』をリリースしたパスピエが、それを携えた全国ツアー『パスピエ TOUR 2019 “more You more”』を、東京・渋谷WWW X(6月12日)を皮切りに全国9都市10会場で開催。そのファイナル公演を7月15日、東京・Zepp Tokyoにて開催した。

 アルバムのレコーディングにも参加したサポートドラマー佐藤謙介と共に、メンバーの成田ハネダ(Key)、三澤勝洸(Gt)、露崎義邦(Ba)がステージに現れ、おもむろに楽器のセッティングを開始。遅れて赤いドレスを纏った大胡田なつき(Vo)がスキップで登場すると、フロアからはひときわ大きな歓声が上がる。まずは『more humor』収録曲「だ」からこの日のライブはスタートした。

 オリエンタルなメロディと、〈踊ランセ〉という印象的なフレーズ、不協和音ギリギリで絡み合うギターとシンセのアンサンブル、変拍子を取り入れたキメのリズムが目まぐるしく交差し、あっという間に“パスピエ・ワールド”へ。間髪入れずに演奏されたのは、3rdフルアルバム『娑婆ラバ』から「術中ハック」。緊張感たっぷりのシンセサイザー・バッキングと鋭利なエイトビートが、The Specialsの「Concrete Jungle」にも通じるキラーチューンだ。

大胡田なつき

 さらに「音の鳴る方へ」では、目まぐるしく変化するコード進行とリズムパターンの上で、たゆたうような大胡田の歌声が伸びやかに響き渡る。各プレイヤーがアクセントを微妙にずらしながら、ギリギリのバランスで組み上げていくような変態的なアンサンブルを、涼しげな顔で演奏していくのがパスピエの真骨頂といえよう。

成田ハネダ

 「ツアーファイナル、来てくれてありがとう。今日は生でパスピエの“ユーモア”を感じてください」と、アルバムタイトルにちなんだ挨拶を大胡田がした後、ヨナ抜き音階のメロディが印象的な「BTB」へ。秒単位で抜き差ししていく音の情報量はハンパないのに、どの楽器も周波数帯域や鳴らされるタイミングの住み分けがしっかりされており、それぞれのフレーズがちゃんと耳に届いてくるのがとにかく圧巻。続く「(dis)communication」ではぐっとテンポを落とし、ヒップホップ的なアプローチからサイケデリックなブレイクを経て、グルーヴィーなサビへとなだれ込む唯一無二のアレンジを披露。成田のピアノソロからスタートした「ユモレスク」は、疾走感あふれるAメロ〜Bメロが、サビでリズムを半分に落とすという意表を突いた展開がパスピエらしい。切なくもポップなメロディをキュートに歌い上げながら、ゆらゆらと体を揺らす大胡田の姿も印象に残った。

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