パスピエが『ネオンと虎』で更新した“らしさ”と“新しさ” 『カムフラージュ』ツアー東京公演を観た

パスピエが更新した“らしさ”と“新しさ”

 パスピエの全国ツアー『TOUR 2018 “カムフラージュ”』が名古屋・NAGOYA CLUB QUATTRO公演(7月14日、15日)でファイナルを迎えた。リアルサウンドではツアー終盤の東京公演(EX THEATER ROPPONGI/7月5日、6日)をレポート。最新ミニアルバム『ネオンと虎』を中心に新旧の楽曲をまんべんなく披露、バンドのさらなる進化を実感できるステージをぜひ追体験してほしい。

パスピエ

 今年4月にリリースされたミニアルバム『ネオンと虎』は、パスピエ本来の“らしさ”を追求しつつ、この先を見据えた”新たな挑戦“を共存させた、意欲的としか言いようがない作品だった。“らしさ”はニューウェーブ、プログレッシブのさらなる追求。“新しい挑戦”はバンドらしい肉体性の獲得、そして、大胡田なつき(Vo)のシンガーとしての強さが前面に押し出されていることだろう。その特徴はもちろん、今回のツアー『カムフラージュ』にも強く反映されていた。

 5月から7月にかけて全国15都市・全21公演。パスピエにとってキャリア史上最大の規模となった今回のツアーは、福岡、仙台、札幌、大阪、東京、名古屋はそれぞれ2daysで行われた。“ネオン編”(1日目)、“虎編”(2日目)とタイトルされ、セットリストもかなり異なっていたのだが(ミニアルバム『ネオンと虎』収録曲は2日とも全曲演奏された)、その違いを成田ハネダ(Key)に聞いてみたところ「セットリストを見ればわかりますよ」。つまり“ネオン編”はカタカナ、英語の曲名が中心、“虎編”は平仮名と漢字を使った曲目が中心で、音楽的な意図があったわけではないという。しかし、この2days公演は結果的に、パスピエの持つふたつの表情“近未来感”と“アジア的な叙情性”のコントラストを強く体感できる内容となった。

ネオン編 ライブ写真
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 ネオン編 ライブ写真
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 初日のオープニングはミニアルバムのタイトルチューン「ネオンと虎」。80’sテイストを色濃く感じさせるシンセからスタートするこの曲は、エレポップ、テクノポップをさらにアップデートさせたナンバー。アレンジ、音色、歌詞(たとえば〈プラスチックの心溶かして/セロファンの空めくる〉)を含めて80年代の音楽がベースにあるのは明らかだが、それを現代的なポップミュージックに結びつけるセンスと技術こそがパスピエのすごさだ。この音楽的なポテンシャルの高さは、ライブという場所でも存分に発揮されていたと思う。

 〈とっっとぅっとぅーる……〉というサビのフレーズがポップな雰囲気を生み出し、プログレッシブなアレンジに圧倒される「かくれんぼ」、明るい解放感のあるサウンドとノイジーなギターリフ、“生まれ変わって前に進もう”という前向きな意志と〈哀しい知識を捨てて/野生を乗りこなすんだ〉という鋭利なメッセージが共存する「トビウオ」、スピード感のあるメロディと〈真っ赤/真っ青〉“〈嘘と誠〉という表裏一体な歌詞(韻の踏み方も素晴らしい)がせめぎ合う「マッカメッカ」。独創的なアイデアが積み込まれたミニアルバム『ネオンと虎』の楽曲は、ステージのうえで空気に触れることで生き生きとしたグルーヴを放ち、オーディエンスの身体と心をしっかりと揺らしていた。単に盛り上がりやすい、騒ぎやすいというだけではなく、音楽的な強度をしっかり保っているところもパスピエらしさのひとつだ。「MATATABISTEP」「ワールドエンド」といった既存の人気曲との相乗効果も、この日のライブの大きな収穫だった。

 特に印象に残ったのは、大胡田なつきのパフォーマンス。まずボーカルに関しては、声量、ピッチ(特に低音)の安定感が明らか向上していた。また、日本舞踊とコンテンポラリーダンスを混ぜ合わせたような振り付け、ステージの端から端まで移動し、観客と積極コミュニケーションを取る姿勢を含めて、フロントマンとしての存在感がいままで以上に際立っていたのだ。アルバム『&DNA』のインタビューの際に大胡田は「私がやったことは、パスピエがやったことになる」「その気持ちが大きくなってきた」と話していたが、その後のメンバーの脱退を経て、“自分がバンドの顔になるべきだ”という思いを強くしたのではないか。そのことがはっきりと感じられる、きわめて魅力的なステージングだった。

虎編 ライブ写真
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虎編 ライブ写真
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 「トビウオ」「Matinee」から始まった2日目は、前述した通り、平仮名と漢字を使った題名の曲がずらりとラインナップされていた。「とおりゃんせ」「永すぎた春」「つくり囃子」などが次々と披露され、パスピエのもう一つの特徴であるアジア的、日本的な雰囲気を強く感じることができた。和っぽいメロディやフレーズを取り入れるという表面的なことではなく、日本的な音楽の構造を解析し、ニューウェーブ、プログレ的なバンドサウンドのなかに組み込むことで生まれる独創性は、たとえば初期の矢野顕子、YMOなどにも通じる。“虎編”のステージでは、そのことを改めて実感することができた。

 また、演奏自体の素晴らしさも圧倒的だった。ポイントはやはり、サポートドラムとしてツアーに帯同している佐藤謙介。髭、井乃頭蓄音団、paioniaなどでもドラムを叩いてる彼のプレイは、ロック的なパワー感と繊細なテクニックを持ち合わせ、パスピエの多様な音楽性ともしっかりフィットしていた。ミニアルバム『ネオンと虎』のレコーディングにも全面的に参加しているので、新曲の完成度も文句なし。肉体性と安定性を兼ね備えたドラマーを得たことで、もともと優れたプレイヤーである三澤勝洸(Gt)、露崎義邦(Ba)が生き生きとした演奏をしていることも印象的だった。

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