Slipknot、Abbath、GYZE……西廣智一が選ぶ話題性の高いHR/HM新作6作
今年の夏から秋にかけて、ハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)やエクストリームミュージック界において実に話題性の高い新譜リリースが多数控えています。そこで今回はすでに発売済みのものからこれから発売される作品まで、選りすぐりの6枚を紹介していきたいと思います。
まずは、アメリカ・アイオワが産んだ“猟奇趣味的激烈音楽集団”Slipknotの5年ぶり新作『We Are Not Your Kind』です。前作にあたる5thアルバム『.5: The Gray Chapter』(2014年)はポール・グレイ(Ba)の急逝やジョーイ・ジョーディソン(Dr)の脱退などバンドの存続に関わるようなトラブルに直面しましたが、それを乗り越え完成した『.5: The Gray Chapter』は非常に怒りに満ちた、従来のSlipknotらしいエクストリームメタルが展開されていました。
あれから5年もの歳月を経て届けられた今作は、メンバーのジム・ルート(Gt)によると「このアルバムを作ったときにインスピレーションになったのは、シングルだけじゃなくフルアルバムを作ることにこだわっているアーティストたちだ。今の音楽業界はとにかくシングルを出して稼ぐ方向に傾いているけど、俺たちスリップノットはひとつの作品として完成している、アルバムでしか味わえない体験を届けたかった」とのこと。実際、全体を通した構成が非常に寝られていて、かつてないほどの緩急に富んだドラマチックなアルバムに仕上がっています。
筆者は常々、Slipknotのアルバムは「ヘヴィさ/攻撃性」「ポップさ/メロディアスさ」「耽美さ/刹那さ」の3つの要素で構成されていると考えており、前作はこのうち「ヘヴィさ/攻撃性」に長けたぶん「ポップさ/メロディアスさ」が若干後退した1枚と感じていました。これは当時のバンドの状況を考えれば納得のいく話かと思います。しかし、今回の新作ではこの3要素がアルバムの中で一番良いバランス感で三角形を作っている。ヘヴィな曲はとことんヘヴィだし、そのヘヴィさもエクストリームさを追求したものから90年代ヘヴィロック的なもの、あるいは80年代のHR/HMを彷彿とさせるギターリフまでさまざま。かと思えば、「ポップさ/メロディアスさ」「耽美さ/刹那さ」に特化した楽曲もしっかり存在しており、1曲1曲の際立ち方は過去最高ではないかと感じました。その3要素の中心にある楽曲が、リードトラックとして公開された「Unsainted」というのも、なるほどと頷けるものがあります。
2020年3月20、21日には幕張メッセ国際展示場1-3ホールにて『KNOTFEST JAPAN 2020』で再来日予定のSlipknot。どんなラインナップになるかも気になりますが、まずは8月9日のアルバムリリースを楽しみに待ちたいと思います(ちなみに日本盤のみボーナストラックとして、昨年秋に突如配信され話題となった「All Out Life」が追加収録されます)
続いて紹介するのは、ノルウェー出身のブラックメタルバンドAbbathの2ndアルバム『Outstrider』です。Abbathは伝説的ブラックメタルバンドImmortalのフロントマンとして活躍したアバス・エイケモ(Vo,/Gt)がImmortal脱退後の2015年、自身の名を冠して結成した4人組バンド。2015年秋の『LOUD PARK 2015』で来日した際にはそのアグレッシブなステージと相反して、アバスのお茶目なキャラクターが一部で話題となりました。
翌2016年に発表した1stアルバム『Abbath』はスラッシュメタルやパワーメタルなど正統派ヘヴィメタルからの影響も見え隠れし(アルバムにはボーナストラックとしてJudas Priestのカバーも収録)、ブラックメタルの一言では片付けられない意欲的な1枚でした。続く今作も基本路線は1stアルバムの延長線上にあるのですが、今作ではそこにアバスのルーツといえる80年代初頭のオールドスクールなHR/HM、中でもブラックメタルの始祖的存在のVenomや、スウェーデンのBathoryなどからの影響が表面化。改めてアバスというアーティストの(ブラックメタルという狭い範疇で括っておくには勿体ないほどの)非凡さを感じさせる強烈な1枚です。なお、Bathoryに関してはボーナストラックで「Pace Till Death」をカバーしているので、機会があったら原曲と聴き比べてみるのもいいかもしれません。