劇団四季ミュージカル『キャッツ』、なぜ愛され続ける? 時代を超えて人々の心を打つ楽曲の魅力

『キャッツ』なぜ愛され続ける?

 イギリスで生まれ、日本に上陸してから35年、今年3月には日本公演通算10,000回、4月21日には総動員数1,000万人を達成した劇団四季ミュージカル『キャッツ』。『キャッツ』は、ミュージカルというエンターテインメントがこの国に定着する過程で大きな影響力があった。東京都新宿にテント式の仮設劇場「キャッツ・シアター」を作り、劇団四季が上演をスタートしたのは1983年。日本で初めて1年間という当時誰もが想像し得なかった大ロングラン記録を達成した。この成功を機に、劇団四季は専用劇場建設へと舵を取り始め、日本の演劇界に大きな影響を与えた。

 劇団四季では『キャッツ』に関して過去にオリジナル・キャスト盤(1985年)、ロングラン・キャスト盤(1989年)をCD化したが、超ロングランとなった今、30年ぶりに最新版『キャッツ』<メモリアルエディション>がリリースされた。

 『キャッツ』は、T・S・エリオットの詩集『Old Possum’s Book of Practical Cats』(河出書房新社で翻訳あり)をもとにアンドリュー・ロイド=ウェバーが作曲したもの。ロンドンで1981年に初演して以来、世界各国でヒットした。

 舞台は都会のゴミ捨て場。猫たちが集まって年に一度の舞踏会を行い、長老のオールドデュトロノミーが、再生し新しい命を得ることのできる一匹を選ぶというストーリーが、歌とダンスを交えて表現されていく。

 それぞれ個性的な猫について、仲間たちや本人自身が語る構成になっている。長老猫、おばさん猫、つっぱり猫、泥棒猫、鉄道猫、マジック猫など、多彩な猫が登場する。大人数のアイドルグループではメンバーが順繰りに自己紹介し、仲間がその人のエピソードを紹介しつつツッコミを入れ、場を盛りあげることがよく行われる。その様子を想像してもらえるとイメージしやすいかもしれない。

 可愛いけれど気まぐれで、どこか神秘的。動物のなかでも特に人気の高い猫のそんなイメージが強調される。衣装メイクを施した俳優たちによる野性的でダイナミックなダンスシーンは多くの人を魅了する。

 ロイド=ウェバーは、この作品でジャズ的な曲を多く書いた。猫が人のような言動をみせるユーモアとこの種族の敏捷性が、場面によってはバグパイプの音色も登場する管楽器の響きと、ピアノや軽妙なリズムで表現される。また、後に巨匠となったロイド=ウェバーは、ロック・ミュージカル『ジーザス・クライスト=スーパースター』(1971年ブロードウェイ初演)で頭角を現した作曲家としても有名だ。『キャッツ』でも「ラム・タム・タガー ――つっぱり猫」のプレイボーイな猫にスポットがあたる場面でロック調が使われ、いいアクセントになっている。

 『キャッツ』では、様々な猫が登場し多種多様な歌声で歌われるところにも魅力がある。ダンスナンバーでは若い猫が目立つが、歌では「ジェニエニドッツ ――おばさん猫」や「バストファージョーンズ ――大人物?」で中年猫が、「ガス ――劇場猫」で昔は名優だった老猫が主人公となる。年齢の違いが表現されるだけでなく、つっぱりは元気よく、泥棒はずる賢く、声色で性格を演じてもいる。出演キャスト陣の腕が光る部分だ。

 また、「ネーミング オブ キャッツ ――猫の名」では、歌ではなく長科白になっている詞を全員でぴったり声をあわせて唱える。猫は一匹一匹が自由奔放に生きているイメージなのに、この曲では一糸乱れぬ協調性をみせて猫らしくないのが、かえって面白い。

 多彩なキャラクターの中でも一際異彩を放っているのが、娼婦猫のグリザベラだ。かつてはグラマーで魅力的だったのに、老いて蔑まれている孤独な猫。身なりも汚くなり、周囲から敬遠されるようになった彼女が、思い出の幸せの日々と光あふれる明日を歌ったバラード「メモリー」は『キャッツ』の代表曲となり、ミュージカル界の新たなスタンダードナンバーとなった。単体で切りだしてもいい曲だが、話のなかで娼婦猫の設定をのみこんだうえで聴くと、いっそう切なく響く。この舞台が、華やかでにぎやかなだけでは終わらないのは彼女がいるからである。

 ロイド=ウェバー作品をふり返れば、「聖書」に書かれたイエス・キリスト最後の7日間を題材にした『ジーザス・クライスト=スーパースター』でも、通説で娼婦だったとされるマグダラのマリアが、イエスに帰依する人物として重要な位置を占めた。『キャッツ』の集会も、誰が救われるべきかが問われる教会に似た場であり、宗教的なテーマを含んでいるのかもしれない。

 劇場に足を運んだかのような臨場感あふれる『キャッツ』<メモリアルエディション>を通して、改めて楽曲のユニークさ、魅力に目を向けていただきたい。

(撮影:山之上雅信)

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。

劇団四季ミュージカル『キャッツ』<メモリアルエディション> 全曲試聴

■リリース情報
『劇団四季ミュージカル『キャッツ』<メモリアルエディション>』
4月24日(水)発売

<先行配信>
メモリー
(iTunesではアルバム予約開始)

初回限定盤【2CD+ブックレット+豪華BOX(三方背)+オリジナル卓上カレンダー(2019年5月~2021年4月まで+オリジナルメモ帳】
価格5,000円(税抜)5,400円(税込)

通常盤【2CD+ブックレット】
価格3,500円(税抜)、3,780円(税込)

<先着限定特典>
劇団四季オンラインショップ&劇場販売:A5クリアファイル
UNIVERSAL MUSIC STORE:缶バッチ(76mm)

<収録内容(初回限定盤、通常盤)>
【DISC1 全12曲】
1.オーヴァーチュア
2.ジェリクルソング
3.ネーミング オブ キャッツ――猫の名
4.ジェニエニドッツ――おばさん猫
5.ラム・タム・タガー――つっぱり猫
6.グリザベラ――娼婦猫
7.バストファージョーンズ――大人物?
8.マンゴジェリーとランぺルティーザ――小泥棒
9.オールドデュトロノミー――長老猫
10.ランパスキャット――けんか猫
11.ジェリクル舞踏会
12.メモリー

【DISC2 全10曲】
1.幸福の姿
2.ガス――劇場猫
3.グロールタイガー――海賊猫の最期
4.スキンブルシャンクス――鉄道猫
5.マキャヴィティ――犯罪王
6.マキャヴィティとの闘い
7.ミストフェリーズ――マジック猫
8.メモリー
9.天上への旅
10.猫からのごあいさつ

<レコーディングキャスト>
グリザべラ… 江畑晶慧
ジェリーロラム=グリドルボーン…岡村美南
ジェニエニドッツ…加藤あゆ美
ランぺルティーザ…山中由貴
ディミータ…松山育恵
ボンバルリーナ…山崎遥香
シラバブ…三代川柚姫
タントミール…間辺朋美
ジェミマ…町真理子
ヴィクトリア…引木 愛
カッサンドラ…藤岡あや
オールドデュトロノミー…飯田洋輔
アスパラガス=グロールタイガー/バストファージョーンズ…藤田光之
マンカストラップ…加藤 迪
ラム・タム・タガー…大森瑞樹
ミストフェリーズ…桒原 駿
マンゴジェリー…玉井晴章
スキンブルシャンクス…田邊祐真
コリコパット…横井 漱
ランパスキャット…高橋伊久磨
カーバケッティ…照沼大樹
ギルバード…新庄真一
マキャヴィティ…文永 傑
タンブルブルータス…吉岡慈夢

■公演情報
劇団四季ミュージカル『キャッツ』
詳細はこちら

■関連リンク
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