大橋トリオ、なぜサブスクで人気? 時代やシチュエーションを問わない挑戦的なサウンドプロダクト
大橋トリオが活動12周年を迎え、新たな道を歩み出している。作曲やアレンジなど、ほぼ全ての演奏を自ら奏でるマルチプレイヤーである彼。自らのスタジオで制作する“こだわりの”音楽探求から生み出された、2月13日にリリースしたばかりの最新アルバム『THUNDERBIRD』が素晴らしい。
アナログ時代のサウンドと質感を追求し、70~80年代の空気感をいまの時代に再構築した音作り。アルバム『THUNDERBIRD』では、シャッフルビートが気持ちの良いTikTokのCMソング「S・M・I・L・E・S」、柔らかに歌い上げていく日本メナード化粧品の60周年キャンペーンソング「Natural Woman」、大橋トリオによるプロデュースで1月にメジャーデビューした姉妹ユニットKitriのモナをフィーチャーした没入感高いシリアスにポップな「kite feat. Mona(Kitri)」など、全10曲を収録している。
スタジオワークによる、変化を醸し出すサウンドチャレンジ
注目すべきは良質なサウンドの深化だ。前作『STEREO』以降、いわゆるフォーキーな魅力を放つ大橋トリオらしさから逸脱した、スタジオワークによる芳醇な変化を醸し出す、品の良い“進化系AOR歌謡”(言葉にするが難しい……)ライクなチャレンジに耳が惹かれる。
最新アルバム『THUNDERBIRD』で注目すべきは、アナログなシンセサイザーと暖かみのあるメロディの優しき沸点。80’sテクノ歌謡風味のイントロダクションが気持ちいい「テレパシー」から幕を開ける。いまや、数年単位で流行り廃りの音の質感が変化する時代。本作は、5年ほど前だったら違和感を覚える音使いだったかもしれない。しかし、2019年のいま、ジャストな音が鳴っているのが面白い。さりげなく鳴り響くシンセサウンドのユニークさ。英語詞による「Fragments」しかり、大橋トリオは、そんな音や質感の移りゆく様を楽しんでいるのだろう。本人の“ニヤッとした微笑み”が伝わってくるかのようなサウンドセンスだ。
芳醇な印象を与える、隙間を活かしたスローナンバーの数々。制作スタイルのテーマは、ストレートに“アナログ”だという。アナログレコードの質感や、それを聴くまでにかかる手間を愛するかのような設えのこだわり=極上の音の響きに着目したい。
アルバムタイトルにもなった70’sアメリカンロックの風合いを感じる2曲目「THUNDERBIRD」は、大味なセンスから、もしかしたら同名のアメ車が由来するのかもしれない。そんな大橋トリオ自身が好きだった洋楽サウンドが1周して、より円熟味をましてサイクルが巡ってきた感がある。それを、エロティックなグルーヴを効かせることで今の時代のサウンド感にアップデートしようと試みているのが彼らしさだ。それこそ、細野晴臣、山下達郎、鈴木慶一、KIRINJI、冨田ラボなど、音にこだわるジャパニーズポップカルチャーの系譜を継承するこだわりのサウンドクリエイションだと思う。願わくばじっくりとレコードで楽しみたい、そんな無駄を削ぎ落とした魔法めいたサウンドが鳴っている。
心に優しく染み渡るちょっと苦い珈琲の香りが漂う「三日月ララバイ」や、孤独と肯定感を唄う大名曲「サニーデー」で鳴り響く、耳あたりのいいファンタスティックな高揚感も忘れずに体感してほしい。最上の時間を味わえることだろう。