Eve、アルバム『おとぎ』が絶好調 2019年ロック/ポップシーンで注目を集める本当の理由
動画サイトへの様々な楽曲投稿をきっかけにネットシーンで人気を集め、2017年発表のアルバム『文化』では自身で全曲の作詞作曲を担当し、シンガーソングライターとしての高い実力を証明したEve。彼の最新アルバム『おとぎ』が、2月6日付のオリコンデイリーアルバムランキングで2位(2月8日付推定売上枚数 : 17,242)を記録し、同日のLINE MUSICデイリー1位、iTunes総合ランキング4位を記録。本作により完全なブレイクポイントを迎えている。また、作品自体の評判も素晴らしく、早くも「今年屈指のロック/ポップアルバムのひとつ」として多くの人々に受け入れられるような状況が生まれつつある。このタイミングで「Eveとは誰なのか?」「どんなアーティストなのか?」と気になっている新たなリスナーも多いのではないだろうか。
Eveはもともと、2009年頃にニコニコ動画の歌い手として「歌ってみた」動画の投稿を開始し、自主制作で2014年に『Wonder Word』、2015年に『Round Robin』をそれぞれ発表。初の全国流通盤となった2016年の『OFFICIAL NUMBER』から一部で自身での作詞作曲をはじめると、翌2017年の『文化』ではいよいよ全曲で作詞作曲を自ら担当。自分の内面を作品にダイレクトに反映させ、若手屈指のシンガーソングライターのひとりとして人気を獲得した。『文化』の収録曲となった「ドラマツルギー」や「お気に召すまま」は、現在までに再生回数がそれぞれ2,000万回を超えており、ライブの規模も拡大。2018年に行なわれたツアー『メリエンダ』では、追加公演として新木場スタジオコーストで開催された自身最大規模のライブを即日ソールドアウトさせるなど、様々な追い風の中で、いよいよ決定打としてリリースされたのが今回の最新アルバム『おとぎ』となる。
たとえば、ボカロP・ハチとして活動をスタートさせ、その後シンガーソングライターに転身。TVドラマ『アンナチュラル』の主題歌「Lemon」のヒットを経て、2018年末に『NHK紅白歌合戦』に初出場をした米津玄師を筆頭に、近年、音楽シーンでは動画投稿を出自に持つアーティストがシンガーソングライターとしてメジャーなどに活動の拠点を移す機会が非常に増えている。ボカロP・バルーンとして活躍していた須田景凪、動画投稿のカバー曲による歌声で注目を集めてシンガーソングライターに転身した夏代孝明など、「歌い手」や「ボカロP」出身のアーティストの活躍は目覚ましく、Eveもまた、その大きなうねりの中にいるアーティストだ。
とはいえ、Eveをその大きな潮流の中の一組としてだけ捉えてしまうと、彼の魅力を正確に伝えることはできないかもしれない。というのも、多くのアーティストが、それまでの匿名性の高いインターネットでの活動にある種区切りをつけ、シンガーソングライターとして人気を広げているのに対して、Eveの最大の特徴は、あくまで当初からの延長線上にあるEveとしての表現でメインストリームに切り込んでいること。彼はインタビューをはじめ媒体への露出でもイラストでの登場を続けており、ライブにおいても映像表現と音楽とが分かちがたく結びついたステージを披露している。つまり、むしろ初期からの表現方法を突き詰めることで人気を獲得してきたアーティストと言える。
こうした活動の核になっているのは、音楽と映像とが融合した「MVがメインプラットフォーム」という発想。彼が顔出しをしていないのも、そうした映像やイラストを含めた表現こそが自分のアートであるという理由で、その映像自体もMah、Wabokuらクリエイターがメインに手掛けている。そうした活動スタイルから、映像作品と音楽との有機的な繋がりが生まれ、彼の作品だけにある独特の世界観が広がっていく。音楽と映像を巧みにリンクさせた活動は今後も続いていきそうだ。そうした魅力は映像作品やライブだけにとどまらず、ファッションブランド「harapeco」のプロデュースなどにも波及。その姿はまるでポップカルチャーのすべてを飲み込んで拡大していくような雰囲気で、音楽、映像、その外側に広がるカルチャーまで、ありとあらゆるものが彼の表現のキャンバスになっている。
しかし、何よりその人気を支えているのは、彼自身が作詞作曲するクオリティの高い楽曲の数々。もともと日本のロックバンドなどをルーツに持つ彼の音楽は、シンガーソングライターでありながらエッジの効いたバンドサウンドを基調にしたもので、サウンド/ライブ面でも彼のバンドでバンマスを務めるNumaを筆頭にした信頼する演奏者/クリエイターとの繋がりを大切にしている。また、等身大でありながらどこか文学的な雰囲気もあわせ持つ想像力を刺激するような歌詞の世界や、キャッチーでインパクトの強いメロディなどによって、ネット発の音楽に親しんでこなかったリスナーにも受け入れられる「ポップミュージック」としての普遍性を持っていることも、彼の音楽が外へ外へと広がっていった大きな理由と言えるだろう。今回の『おとぎ』は、彼がそうしたこれまでの音楽性をさらに追求し、より広い場所へと手を伸ばすような雰囲気の作品になっている。