88rising来日公演が示した、新しいアジアンカルチャーの確立ーーimdkmがレポート
バックDJのDon Krezと共に登場したRich Brianは、終始リラックスした雰囲気でパフォーマンスを進行。ジョークも交えたMCでオーディエンスの笑いを誘いながら、一度ビートが始まれば流暢でタイトなラップで場を熱狂させる。ギターのアルペジオが美しくもメランコリックな「Glow Like Dat」が個人的には白眉。ヒット曲「Dat $tick」では大きなシンガロングが起こった。
最後に、KOHHを除く今回の出演陣が勢揃いし、昨夏フェスの開催と共に発表されたコラボレーションアルバム『Head In The Clouds』からの楽曲を披露。〈F*ck the ru-u-u-les!〉とフックをオーディエンスと共に歌い上げ、まさに大団円を迎えた。
ラインナップからキャンセルが出たのは惜しかったが、88risingの面々はそれを覆してあまりあるほどのパワフルなパフォーマンスを見せてくれた。また、フロアいっぱいのオーディエンスから聞こえてくる英語、中国語、韓国語も印象的なら、アクトごとにそれぞれ異なるエスニシティを持つ人びとが興奮しているのも興味深かった。普段は可視化されづらい日本の中の多様性が、音楽を通じて浮かび上がってくるかのようだった。いくらYouTubeの再生回数やチャート上の数字を追っても見えてこない、「これはたしかにひとつのカルチャーを確立する」という確信を得られたというべきか。
そしてなにより驚いたのは、彼らに強烈にエンパワメントされている自分自身に対してだった。たとえばHigher BrothersやRich Brianのパフォーマンスは“興味深い他者”であるよりも、“自分を勇気づけるロールモデル”のようにも感じられたのだ。“アジア”いう属性で文化をくくってしまうことの危うさをうっすらと覚えつつも、彼らのパフォーマンスに共感し、鼓舞される自分もいる。このことは、いかに自分が普段触れてきた文化の中にこうしたリプレゼンテーションが欠如していたかの裏返しであるように思えて、ショックでもあった。この意義はじっくりと批判的に吟味する必要はあるだろうが、排外的なナショナリズムや民族主義とはまた異なる、新しい文化的な紐帯の可能性に賭けてみたいと感じた一夜だった。
■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」
(写真=YUSUKE UCHIDA、@akira_the_padawan、@allanabaniu)