88risingが示唆するポストYouTube時代の音楽のあり方 “横断的なプラットフォーム”が鍵に
ヒップホップを中心に、音楽・ファッション・サブカルチャー・食など、アジアのユースカルチャーをグローバルに発信し続ける話題のメディア・プラットフォーム、88rising。
音楽においては今、洗練されたプロダクションとパフォーマンスで人々を魅了する、高度に産業化されたK-POPがアジアンカルチャーのメインストリームとして世界を席巻している。そんななか、88risingはより身軽なアプローチで、アジアンカルチャーのオルタナティブを提示することに成功している。
2017年には所属ミュージシャン勢による初のアジアツアーも成功させ、4年目に入ってなお注目を集める彼らの姿を通して、YouTube以降の音楽のあり方を考えてみたい。
まず、88risingの背景についてもう少し説明をしておこう。
首謀者は、日系アメリカ人のショーン・ミヤシロ。アメリカのメディアVice内で、エレクトロニックミュージックに特化したウェブマガジン・Thumpを立ち上げた経歴を持つ。しかし、かねてからアジアのヒップホップに入れ込んでいたミヤシロは、2015年に88risingを発足することになる。
当時はちょうど、韓国のラッパーKeith Apeらによる 「It G Ma」が海を越えたヒットを飛ばしたころ。折からのK-POPブームと共に、アジアンカルチャーへの関心が高まっていたこのタイミングも時宜を得ていた。88risingは、Keith ApeやKOHHといった韓日のラッパーをはじめとして、中国の4人組ラップグループHigher Brothers、インドネシアのラッパーRich Brian、大阪出身のシンガーjojiといった才能をYouTubeチャンネルを通じてつぎつぎと紹介した。
88risingが話題を集めた要因として、アメリカからDesiignerやLil Yachtyといった旬なラッパー、Ghostface Killahのような大物ラッパーをフィーチャーしたビデオを多数公開し、アジア系以外のオーディエンスにも訴求するコンテンツを打ち出したことが挙げられるだろう。彼らはこうした「本場」の声を味方につけながら、「アジア=クール」というブランディングを行っていった。
しかし、88risingの新しさは、従来のビジネス的な慣習にとらわれない横断的なプラットフォームとして活動している点にある。ミヤシロは一度、Pitchforkの取材にこう答えている。
「たくさんの人が不思議がってる。『88risingっていったいなんなんだ? YouTubeチャンネル? マネージメント会社? レコード・レーベル?』(中略)実のところ、その全部だ」
メディアであり、マネージメント会社であり、レーベルであり、映像プロダクションであり、マーケターでもあり……88risingは30人程度の従業員を抱える比較的小さなスタートアップだが、カバーする分野は幅広い。あらゆるビジネスをこなすこの小回りの良さによってこそ、彼らはYouTube以降の時代のスピード感に適応できていると言えるだろう。