『JUNCTION』インタビュー
早見沙織が語る、自作曲10曲のアルバム制作で見えた“歌い手・作り手としての現在地”
早見沙織が12月19日、2ndアルバム『JUNCTION』をリリースした。同作は人気声優でもありながら歌手活動を行う早見が、自身で全14曲中10曲の作詞・作曲を担当。これまでの作品で表してきた歌手としてのポテンシャルに加え、ここにきてソングライターとしての“覚醒”を見せた作品に仕上がっている。
リアルサウンドでは早見にインタビューを行い、各楽曲の細かな制作背景や、作り手・歌い手としての現在地などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)
「コード感のカラーでここまで曲の雰囲気が変わるんだ」
ーー音楽好きは年末になると年間ベストを決めたがりますが、そこに勢いよく殴り込んでくるタイプの作品ですね。
早見:ありがとうございます、年末も末の作品ですからね……。
ーー早見さんのアルバムって、ポップスとして綺麗にまとまっているというイメージだったんですが、今回は音楽的に尖りつつ、ポップスとしての強度がある作品になっていると思います。今回は自作曲が10曲と驚異の曲数ですが、これは結果的にそうなったのか、あらかじめ決めていたのか、どちらなんでしょう?
早見:結果的にそうなった、という感じですね。なので、自分としてはドヤ顔で出しているわけではないというか……(笑)。音楽活動を始めさせていただいた頃から作ってきたものの欠片を切り取って楽曲にしてきて、それらがギュッと凝縮された一枚なんだとは思います。
ーーとはいえ、直近のシングル『新しい朝』『Jewelry』の収録曲で、劇的にソングライターとしての才能が開花したようにも感じました。1曲作るごとに腕が上がっているという手応えはありますか?
早見:具体的にこの曲でそう思った、みたいなことはないんですが、制作に関わらせていただいてるうちに自然とできることが増えてきた感覚はあります。今回のアルバムは全て新しく書き下ろしたわけではなくて、前に提出してたデモのなかから選んだものや、終盤で出したデモから急遽収録されることになった駆け込み乗車組まで登場したので、出揃ったものを綺麗に並べてみたらこうなったんです。
ーーちなみに、今回のアルバム制作にあたって作っていたデモの曲数は?
早見:断片的なものも含めればかなりの曲数になるんですが、会議に出ていたデモは20曲くらいですね。これまでに作ったものを、ディレクターさんが一覧にしてくださっていたんですが、私が記憶から消そうと思っていたデモも入っていたりして(笑)。
ーー『JUNCTION』というタイトルは、なんとなく「あ、早見さんっぽいな」と思いました。
早見:これは制作途中で生まれたワードで、いくつか候補は考えてたんですけど、ある瞬間にふわっと思いついて、一気に本命になりました。今回の曲たちって、色んな方向を見ているというか。前にグッと気合いを入れて向かっていくものもあれば、後ろをぐるぐるしているような曲もあったり、いきなり突き刺してくるような曲もあります。それらすべてを綺麗に囲んでくれる枠組みが欲しいなと思って、色んな線の中継地点、重なる場所という意味の『JUNCTION』になりました。ちなみに、私っぽいというのはどういうことでしょう?
ーーこれまでに「SIDE SEAT TRAVEL」のように都会のハイウェイっぽい曲も書いていますし、イメージ的にも近いなと。あと、今回はコーラスなどでいつも以上に声を効果的に使っているので「歌手と声優のジャンクション」でもありますし、自作曲も多いので「歌い手と書き手のジャンクション」でもあるな、なんて。
早見:なるほど! 私が言うべきでした(笑)。でも、最初は「無機質すぎるかな?」って心配だったんですよ。アスファルトのザラザラした感じがあるというか、言葉として固すぎるなと思ってしまって。それをうまく中和してくれる柔らかさが欲しいなと思って、ジャケットの配色や雰囲気にも気をつけました。
ーージャケットもまた攻めていますね。早見さんの顔は一切出てこない、洋楽のインディーポップみたいなアートワークだと思いました。
早見:昔から私は「写真じゃなくていいです」と言っていて、ここでようやく形になったんです。
ーー念願叶った形だったんですね。アルバム自体は川崎里実さんが手がけた「Let me hear」から始まります。これまで川崎さんが書いた曲の中でもずば抜けて大人っぽいですし、ここ最近ゴスペルなどのジャンル選択をしてきた早見さんに、ブルージーかつ70’sロックンロール~サザンソウル的な曲を持ってきたのは流石だと思いました。
早見:初めから川崎さんに1曲書いていただこうと決めていたんですが、リクエストは「ライブで一緒に盛り上がれて、テンポはミディアムからアップくらいのかっこいい曲を」というくらいだったんです。でも、想像以上に素敵な楽曲で嬉しかったですね。川崎さんの曲ってメロディラインが独特ですし、ピアノのラインとかも難しいものが多いんですが、今回はシンプルだけどかっこいい曲を作っていただきました。確かにロックンロールというか、昔っぽい感じはありました。
ーーそこから2曲目に「メトロナイト」、3曲目に「夏目と寂寥」と、攻めのラインナップが続きます。早見さんをシングル表題曲だけで知っている人がこのアルバムを聴いたら、いきなり横から殴られたような衝撃を受けそうですが。
早見:そうなんですよ(笑)。1stアルバムはポップでキャッチーな楽曲を前半部分に持ってきていて、後半に遊びを入れていたんです。でも、今回はその逆になったのは面白いなと思いました。逆にしようと考えていたわけではなくて、この2~3年でやってきたことを形にしたらそうなっただけなんですけど。
ーー「夏目と寂寥」はキメの作り方などがソフトロックっぽい、疾走感のある曲ですね。
早見:メロディ自体はレトロな感じを意識しました。終盤に作った曲なんですけど、ディレクターさんから「『夢の果てまで』といい感じで繋がるかもしれません」と言ってもらえて。編曲は倉内達矢さんに「お任せします!」とお渡ししたら、面白いくらい「こうなったらいいな」という理想通りのアレンジになっていて、感動しました。
ーー「夢の果てまで」との繋がりといえば、歌詞で描かれている主人公も紅緒に似ているような(「夢の果てまで」は『劇場版 はいからさんが通る 前編 〜紅緒、花の17歳〜』主題歌で、早見は花村紅緒の声も務めた)。
早見:歌詞の中身まで繋げようとは考えてなかったんですけど、主人公のまっすぐさとかレトロな感じは確かに似ていますね。ただ、「夏目と寂寥」の主人公はちょっと狂気めいてるというか……(笑)。「疑いようのないまっすぐさに秘められた恐ろしさ」を意識しながら書いたんです。コード感としても、〈言葉では多分無理〉からのDメロ部分はマイナーからメジャーにパキっと転調して間奏に入っていったりと、楽曲でもその喜怒哀楽を意識しました。
ーー個人的にもここの構成は好きです。最終的な楽曲も、早見さんが作ったコード感がそのまま活かされているんですか?
早見:ほぼそのまま使っていただけました。そこに行く前の2番サビラストの〈ドレミファソラシド〉も、1番で使ったのと同じマイナーコードを活かそうと思ったんですが、作っているときに偶然弾き間違えて、半音上がっちゃって。でも、それが面白いかもと思いましたし、そうすることで歌詞のイメージも膨らんできました。コード感のカラーでここまで曲の雰囲気が変わるんだと改めて勉強になりましたね。あと、間奏終わりで〈愚かなこと わかっているのに〉からラストサビに向けて「転調したいけどどうしようかな……キーが高いかな……」と思いつつ、そこまで手を入れずに倉内さんへお渡ししたら、バッチリ倉内さんが最初の1行だけ転調してから戻る、という流れを作ってくださっていて「流石だ!」と思いました。