早見沙織が語る、自作曲10曲のアルバム制作で見えた“歌い手・作り手としての現在地”

早見沙織、“作り手としての現在地”

「最後は私が私を“赦した”ような感じになった」

ーーアルバムは「interlude: forgiveness」を挟んで8曲目以降に繋がります。この曲が入っているということは、A面B面を意識した構成なのかなと思ったのですが。

早見:一番最後の「温かな赦し」が先にできていて、これを最後にしようというのはチーム内でもなんとなく固まっていたんです。そこに繋がる曲があってもいいかも、ということで「interlude:forgiveness」を作ったんですが、この曲が果たしてどこに入るべきなのかともう一度考えはじめて。曲の大まかな構成ができてきた時に、これは真ん中に置くべきだと思ったので、最終的にこの位置になりました。

ーーなるほど。ここが分かれ目と言わんばかりに、大久保薫さん楽曲が続くパートへと入ります。パーカッションの音色も特徴的なボッサ風の「SUNNY SIDE TERRACE」から、ベースが全体を牽引する「Bleu Noir」へと繋がりますね。

早見:ここは意識せず大久保さん曲が繋がりました(笑)。「Bleu Noir」は“記憶の中のフランス映画”みたいなイメージで作ったのを覚えています。

ーー2曲の繋がりでいうと、「SUNNY SIDE TERRACE」と「Bleu Noir」は共に〈空色のシャツ〉〈泥掠れ ブラウス〉と服を使って主人公像を浮かび上がらせているな、とも思いました。

早見:あ、本当ですね! しかも2曲とも同じ箇所でした。そう言われると、私の歌詞の書き方はどこか映像的なのかもしれません。いろんな物事をその瞬間の映像で覚えているというか。「あの時は窓ガラスに水滴がついてたな」「あの時の空の色がすごい難しい色だったな」「ブラウスに土がつくと泥っぽくなって、でもそれがいいな」とか、そういう記憶の仕方をしているので、必然的に書く歌詞もそうなってくるんでしょうね。

ーー楽曲はすごくファンキーなアレンジが施されていますが、早見さんの作曲時はどこまでこの展開を意識したんでしょうか。

早見:デモはこれよりもかなりシンプルなものではありますが、その段階から分厚いコーラスが入ると良いなと思って、かなり重ねていました。自分で作ったデモのなかでも、この曲は絶対に入れたいと思っていた1曲です。あと、最後のラテンっぽい終わり方はデモの段階でエッセンスとして入れていましたね。前半はゆったりと揺れている感じで、後半はエモーショナルで盛り上がるような曲にしたいなと思ったので、デモも終盤グッと上がっていく感じや、タッチの強いフレーズを意識したら、大久保さんがその何千倍もの“格好良さみ”を込めてくださったうえに、とびきりお洒落になっていて。私はジャズや70年代ソウルっぽいなと思いましたけど、他のスタッフさんは「アシッドジャズっぽい」と言っていたり、最後はラテンだったりと、ジャンルも固まりすぎない感じに仕上げてくださいました。

ーーコーラスは確かにすごいですね。クワイアを従えて歌っている早見さんの姿が浮かびました。それこそ前回話してもらったジョージ・クリントンのライブみたいな(参考:早見沙織が語る“多面的な歌と演技”に挑み続ける理由)。

早見:ああ、確かに(笑)。この曲はライブでどう形にしよう、というのはちょっと迷ってるんですよね……。「Let me hear」ならガンガン歌ってもらえると思うんですが、これは難しいところで。

ーー12月23日のライブでは披露されるのか、どうなるのかも含めて楽しみです。10曲目の矢吹香那さんが手がけた「little forest」は、ギターの温かい音色が特徴的ですし、サビでジャジーな金管が効果的に入っているのも素敵です。個人的にすごく面白いなと思ったのが、早見さんの自作曲と示し合わせたように川崎さんと矢吹さんの曲がソウル・ジャズのテイストなんですよね。長くご一緒しているお二人から見ても、早見さんの現在地はここだと感じたのかなと。

早見:私からはソウルやジャズというリクエストは特に何も言ってないので、不思議な、そして素敵な形でリンクしました。川崎さんも矢吹さんも、以前から私の歌や曲をそばで見ていてくださっているからこそ、私以上に良さや引き出すべきポイントを知ってくれているんだと思います。「little forest」はギターが前口さんで、菅は矢吹さんが吹いてくださっているので、3人でセッションをしているような感覚で歌えました。

ーーそして「Jewelry」を挟んでの「Bye Bye」は、ライブを意識して作ったのかなと思ったのですが。

早見:「明るい、ポップな曲にしよう」というのはすごく意識しました。でも、Aメロの出だしの部分が全然決まらなくて、どうしようと思っていたんですが、駆け込み乗車で間に合いました。

ーー「夏目と寂寥」で“レトロ感”というワードを使いましたが、これは近いけど懐かしい感じですよね。90~00年代のJ-POP感というか。

早見:確かに、Bメロのサビ前などは、作っているときに「親の世代から聴いてきた懐メロっぽいな」と思っていました。

ーーコード感も王道進行で、すごくキャッチーな仕上がりになっています。

早見:コードに関してはあえてベタなものを意識しました。その分ハッピーな雰囲気をしっかりと出せたと思います。

ーーラストは「新しい朝」を経て、早見さんの手がけた「温かな赦し」へと繋がります。個人的には「新しい朝」がラストだと思っていたので、もっとスケールの大きい曲があるのかと。

早見:前口さんのアレンジのおかげですね。音作りで広がった部分は大きいですし、マスタリングなどの作業を経て包み込まれるような音になったなと思いました。アルバムにおいても、『JUNCTION』というテーマをもう一つ外側から包み込むものになっているのかなと。

ーーテーマが壮大なものになった分、作詞も難しかったのでは?

早見:そうですね。現場で歌いながら結構書き直したのを覚えています。最初は抽象的な歌詞だったんですが、曲が壮大なので歌詞がふわっとしていると全体像が定まらないなと思って、なるべく直接的にグサっとくる言葉に置き換えていきました。〈いいよ いいよ〉というワードは最初から残っていた気がします。

ーーそれこそ「Jewelry」のサビで使われている〈大丈夫〉も含め、全体的にそういうムードがあるのかな、と思いました。どこかご自身を俯瞰で見ているようなフレーズも多いというか。

早見:そういうムードが欲しかったのかもしれないですね。2番はまさにそうなんですが、直接的なワードに書き換えて歌った時に、すごくエモーショナルな気持ちになったんです。なぜか泣きそうになってしまって。最後は私が私を“赦した”ような感じになったというか。

ーー早見さんはいつも謙遜されますが、ここまでの作品をご自身で作り上げたんですから、もっと自信を持って良いと思います。

早見:じゃあ、今後はちょっとだけ自信を持っていきますね(笑)。

(取材・文=中村拓海/撮影=堀内彩香)

■リリース情報
『JUNCTION』
発売:2018年12月19日(水)
価格:CD+Blu-ray盤 ¥5,200+税
CD+DVD盤 ¥4,500+税
通常盤 ¥3,000+税

<CD収録内容>
1. Let me hear
作詞・作曲・編曲:川崎里実
2. メトロナイト
作詞・作曲:早見沙織/編曲:倉内達矢
3. 夏目と寂寥
作詞・作曲:早見沙織/編曲:倉内達矢
4. 夢の果てまで
作詞・作曲:竹内まりや/編曲:増田武史
5. 白い部屋
作詞・作曲:早見沙織/編曲:前口 渉
6. 祝福
作詞・作曲:早見沙織/編曲:河田貴央
7. interlude: forgiveness
作曲:早見沙織/編曲:前口 渉
8. SUNNY SIDE TERRACE
作詞・作曲:早見沙織/編曲:大久保 薫
9. Bleu Noir
作詞・作曲:早見沙織/編曲:大久保 薫
10. little forest
作詞・作曲:矢吹香那/編曲:前口 渉
11. Jewelry
作詞・作曲:早見沙織/編曲:倉内達矢
12. Bye Bye
作詞・作曲:早見沙織/編曲:倉内達矢
13. 新しい朝
作詞・作曲:竹内まりや/編曲:前口 渉
14. 温かな赦し
作詞・作曲:早見沙織/編曲:前口 渉

<Blu-ray・DVD収録内容>
※CD+Blu-ray盤、CD+DVD盤特典ディスクに収録(53分)
『Hayami Saori Birthday Special Live 2018 @東京キネマ倶楽部 Selection』
収録曲:Secret/夢の果てまで/やさしい希望/ESCORT/ブルーアワーに祈りを/To years letter/Jewelry
『「夢の果てまで」メイキング』

<初回生産分封入特典>
※CD+Blu-ray盤、CD+DVD盤、通常盤ともに封入
早見沙織2ndコンサートツアーチケット優先購入抽選申込券

<メーカー特典>
「B2告知ポスター」
対象商品:CD+Blu-ray盤、CD+DVD盤
対象店舗:アニメイト、ゲーマーズ、ソフマップ、とらのあな、タワーレコード、HMV、TSUTAYA

<オリジナル特典>
対象商品:CD+Blu-ray盤、CD+DVD盤 ※通常盤は対象外
アニメイト:複製サイン&コメント入りA3クリアポスター
ゲーマーズ:複製サイン&コメント入りA4クリアファイル
タワーレコード:複製サイン&コメント入りポストカード
HMV:複製サイン&コメント入りポストカード
TSUTAYA:複製サイン&コメント入りポストカード
Amazon.co.jp限定:複製サイン&コメント入りポストカード
TOWERanime各店+渋谷店限定特典:A3特典ポスター

※対象店舗:タワーレコード渋谷店、新宿店、京都店、川崎店、名古屋近鉄パッセ店、札幌ピヴォ店、梅田NU茶屋町店、浦和店
※特典は数に限りあり。なくなり次第終了
※特典の有無など詳細は各店舗まで

■ツアー情報
『早見沙織 2019年全国ツアー』
2019年4月6日(土)開場 17時15分 開演 18時00分
場所:広島・JMSアステールプラザ大ホール
2019年4月7日(日) 開場 17時00分 開演 18時00分
場所 大阪・大阪国際会議場メインホール
2019年4月13日(土) 開場 17時15分 開演 18時00分
場所 北海道・札幌市教育文化会館 大ホール
2019年4月29日(月・祝)開場 17時00分 開演 18時00分
場所 東京・東京国際フォーラム ホールA

チケット代金:全公演 前売 ¥8,000(税込)当日 ¥8,500(税込)

■関連リンク
早見沙織 オフィシャルサイト

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