『風が強く吹いている』OP&EDは登場人物の心情にどう寄り添う? 向井太一とユニゾン楽曲を聞く
一方、オープニングテーマにはUNISON SQUARE GARDENが歌う「Catch up, latency」が起用されている。同楽曲は、原作小説を読み込んだという田淵智也(Ba)が、“才能の潜在能力”をテーマに制作。Bメロで奏でられるスタッカートをはじめ、彼ならではのキャッチーさを存分に感じ取れるだろう。また、サビでは斎藤宏介(Gt/Vo)のハイトーンな歌声が勢いを増していくなど、どこをとっても爽快さに溢れている。
先程と同じく、サビの歌詞にも注目すべきポイントが用意されている。〈ジグザグすぎてレイテンシーが鳴ってる それが意外なハーモニーになって/あまりにも不明瞭で不確実 でもたまんない〉という一節には、タイトルにもある「レイテンシー」という単語が登場する。11月6日放送のラジオ番組『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FMほか)では、ゲストとしてメンバーが出演した際、この言葉を「デジタル機材用語で“遅れ”を意味している」と解説する場面もあった。また、陸上競技をはじめ、あらゆるバックグラウンドを抱える青竹荘のメンバー全員が同じ目標を見据えることで、彼らの弱点が徐々に埋められていく様子を表したようだ。
このマイナスな事項がプラスに変化する構図は、カケルと青竹荘の住人たちからも確認できる。長距離走の経験者であるカケルは、箱根駅伝出場がいかに難しいかを踏まえている。だからこそ初心者チームである青竹荘のメンバーにも、時には強い言葉をぶつけてしまうことがあるのだろう。彼らにとっても、カケルは全く異なる価値観を持った存在として映るのかもしれない。
しかし、あるきっかけからその心境にも変化が生まれ始める。同話では、榊が青竹荘の住人たちが箱根駅伝を目標とするのを嘲笑った。その際、“王子”こと柏崎茜(CV:入野自由)が、青竹荘の面々を自身の嗜好や価値を認めてくれる存在だと熱弁したことで、カケルもだんだんと心を動かされつつある。一人一人が“レイテンシー”になりえる変わり者だからこそ、彼らが時として一致団結した際には、視聴者もなおさら深い感慨を覚えることだろう。彼らは今後どのようにしてチームメイトと認め合うのか。そして、カケルが秘める胸の内を打ち明ける瞬間にも大きな期待が寄せられる。
そのまま同楽曲を聴いていくと、〈風なんかは吹いてないのに 何かが頬を通過したのは/風なんかは吹いてないのに 君の心に追いついたせいかな〉という一節に、大きく意表を突かれるはずだ。ここでは『風が強く吹いている』というタイトルとは真逆のフレーズがリフレインされており、UNISON SQUARE GARDENらしい皮肉さを兼ね備えている。このフレーズもまた物語の進行に伴い、今とは違った聴こえ方になるのかもしれない。
“個人の過去”を歌う「リセット」と、“チームの未来”を予感させる「Catch up, latency」。寛政大学陸上競技部員たちが、箱根の山道を駆け抜ける瞬間まで、どちらの楽曲も彼らに寄り添い続けてくれるに違いない。
(文=青木皓太)