キーパーソンが語る「音楽ビジネスのこれから」 第11回
FM802 栗花落 光社長が語る、“クラスメディア”としてのFMラジオと音楽の可能性
ラジオ局だからこそできる『ミナホ』のストロングポイント
ーーもう一つのFM802における代表的なライブイベント『MINAMI WHEEL』をスタートした経緯も聞かせてください。
栗花落:アメリカのテキサスで毎年開催されるイベント『サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)』を観に行った当社のスタッフが、「日本でも同じようなイベントをやりたい」と言い出したのが、『MINAMI WHEEL』誕生のきっかけでした。当初は、札幌・東京・大阪の3地区で同じようなコンセプトの(『SXSW』を手本にした)イベントが立ち上がりましたが、続いているのは『MINAMI WHEEL』だけです。最初の2~3年間はなかなかうまくいかず……やはり、アマチュアやデビューしたてのミュージシャンばかりが参加していて、有名なアーティストが全く出演していなかったので、お客さんが4人くらいしかいない会場もあったりしました。でも、継続することで少しずつ形になっていきましたね。
ーー苦難の時代があるからこそ、今があるのですね。
栗花落:そうですね。FM802では「meet the music on the radio」というキャッチフレーズを使っていますが、ラジオにおける音楽は「聴く」というよりも「逢う」というほうがイメージ的に合うんです。自分が選んだ音楽を聴く時は「Listen to the music」ですけど、ラジオでかかる音楽はほとんど他人が選んだもので、たまたま出逢うわけですよね。だから「meet the music」。その「meet the music」の理念をイベントにしたものが、『MINAMI WHEEL』だと思ってください。ラジオで「この人の曲、初めて聴いたけど、ちょっと気になるな」と思って、実際に『MINAMI WHEEL』へ観に行くということもできますし、そういった意味でラジオ局主催だからこそ成立するイベントではないかと思います。プロモーターさん主体では、同様のイベントを実施することは難しいのではないでしょうか。
ーーその“ミナホ”が、今年で20周年の節目を迎えます。
栗花落:あえて、20周年だから何か特別なことをしようというのは考えていません。まぁ、過去20年で出演したビッグアーティストがずらり勢揃い!……みたいにしても良いとは思うんですが、そういうイベントでもないと思うので(笑)。
ーーそれもそうですね(笑)。こうしたイベントと共にFM802は、アート発掘・育成プロジェクトのdigmeout(ディグミーアウト)を行っているように、アートの分野にも力を入れている印象を受けます。
栗花落:CDに必ずジャケットがあるように、もともと音楽とアートというのは切っても切れない関係ですよね。だからFM802も音楽だけではなく、音楽を核にして広がっているアートを含めたライフスタイル全体に関わりたいという想いがあります。それは30年前の開局当時から変わっていません。それに、音のコンテンツなのにビジュアルに注力しているというのが、逆説的でちょっと面白いかなという気持ちもあります。
ーービジュアルといえば、開局当初に配布された「バンパーステッカー」が街中の車に貼られたことで、視覚面からFM802のプロモーションに大きな役割を果たしていました。
栗花落:そうでしたね。開局当時に、グラフィックデザイナーの黒田征太郎さんと長友啓典さんの事務所「K2」に企業ロゴを依頼した際、黒田さんが「FM802」「FUNKY 802」と手書きで書いたロゴをたくさん制作してくれたんですよ。その後、「このロゴを色んなかたちで使ったら面白いんじゃないか?」と提案してくれたことがきっかけで、「バンパーステッカー」が生まれました。それをみんなが車に貼るなりして、思い思いに使ってくれたというのは嬉しかったですね。
ーー比較的最近の施策でいうと、2012年からFM802はFM COCOLOも運営されるようになり、いわゆる「1局2波体制」を取られています。
栗花落:もともと、ビジネスとしての運営に行き詰っていた大阪の外国語FMから「FM802で何か出来ませんか?」という話をもらったのが事の始まりです。そこで「外国語放送局として最低限の機能は残しつつ、コンセプトを一新してもいいですか?」と打診したところOKが出たので、オーバー40向けのラジオ局をつくることにしました。何故その年代をターゲットにしたのかというと、FM802の開局から当時で25年が経っていて、20歳だった人はそろそろ45歳になると。で、やっぱり20代と40代が聴く音楽はどうしても変わってくるので、ミドル世代専門のラジオ局も必要だと考えたわけです。DJも開局当初にFM802でやっていた人の多くがFM COCOLOに移って活動しています。
ーーベテランDJさんの活動の場にもなっていると。
栗花落:そうです。ラジオ局にとっては、DJって宝物なんですよ。FM802もずっとDJオーディションをやっているんですけど、そこから出てきて初期の頃からDJをやっていたマーキー、Hiro-T、山添まり、カマサミ・コングなどは、今、FM COCOLOでやってもらっているんですね。そういう宝物みたいなDJが、ラジオというメディアの中で、ターゲットが変わっても仕事を続けていくというのはすごく重要なことだと思います。
ーーFM802は個性の強いDJさんばかりで、贔屓のDJさん目当てで番組を聴くというリスナーも多いですしね。
栗花落:そういう意味で、1局2派体制になったのはすごく自然な流れなんですよ。FM802でDJをやっていた人が50歳・60歳になって、「そろそろ卒業かな……」となっている時に、「いや、あなたにはまだ次のステージがある」と言えるわけですから。今まで30年近くコミュニケーションを取ってきた人がこれからも現役であり続けるというのは、番組を聴くリスナーにとっても、一緒に仕事をする局サイドとしても大事なことです。それにFM COCOLOの開局によって、FM802が初期のターゲットである「18歳の感性」にもう一度焦点を絞った番組・イベントづくりを出来るようになったことも、「2波運営」の大きなメリットでしたね。