『SCHOOL OF LOCK!』はなぜ“記憶本”を作るのか? 番組のキーマン・森田太氏に聞く

『SOL!』キーマンに聞く“記憶本”制作理由

 音楽文化を取り巻く環境についてフォーカスし、キーパーソンに今後のあり方を聞くインタビューシリーズ。第10回目に登場するのは、TOKYO FM執行役員 編成制作局長 兼 グランド・ロック代表取締役社長の森田太氏。1995年に『ヒップホップナイトフライト』を立ち上げたり、『やまだひさしのラジアンリミテッド』や『福山雅治のSUZUKI TALKING FM』小林武史との『ap bank Radio』など数々の番組に関わり、2005年には『SCHOOL OF LOCK!』を立ち上げ“海賊先生”の愛称でリスナーにも親しまれる存在だ。

 今回は『SCHOOL OF LOCK!』の約9年ぶりとなる記憶本『SCHOOL OF LOCK! DAYS4』を中心に、同番組や彼が旗を振る『未確認フェスティバル』、その前身となった『閃光ライオット』の話や、森田氏が思う10代の感覚などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)

「リスナーに背中を押されたら、作らないわけにはいかない」

ーー今回は『SCHOOL OF LOCK! DAYS4』制作プロジェクトについてのインタビューですが、『SCHOOL OF LOCK!』(以下、『SOL』)や『未確認フェスティバル』のことなども聞いていきたいと思います。そもそも、『SCHOOL OF LOCK! DAYS』シリーズをなぜ作ろうと?

森田太(以下、森田):僕らは『SOL』というラジオ番組を作っているわけですが、ラジオ番組って、今でこそ聴き逃した人のためのサービスもありますけど、基本的には放送したら消えちゃうんですよ。ラジオの生放送には、その時間・空間にいてくれた人、聴いてくれた人しか体感できない「何か」があって、その体験は二度と戻ってこない。そういうどこか瞬間的で刹那的なものを発信しているんです。そんな時間・空間を、できるだけその時の空気感に近い形やニュアンスでなんとか封じ込めて、これまで聴いてくれた人たちと、まだ聴いてくれてはいないだろう人たちに向けて発信したいと考えたときに、「1年間を1冊の本にまとめて、番組の“記憶本”として出そう」という出口にたどり着きました。それを3年間やり続けたのが、『DAYS1』、『DAYS2』、『DAYS3』でした。

『SCHOOL OF LOCK! DAYS1』

ーーそこから約8年という空白が生まれた理由は?

森田:正直にお話しすると、記憶本を作るのはとても大変なことでした。想いを言葉にして、声にして、それに音楽を重ねて電波に乗せるというのは、ある種の空間芸術みたいなもので、それを「紙」に封じ込めるというのは、もう一つ別の番組を作るというくらいの労力なんですね。それを3年間連続でやってみたら、一緒に制作してくれた編プロのスタッフのヒトが僕らのテンションについていけず辞めちゃったり、実家に帰っちゃったり(汗)。「これを毎年やっていくのは限界だな」と思い、少し休もうと話していたら、あっという間に8年が経ってしまいました(笑)。

『SCHOOL OF LOCK! DAYS2』

ーーではなぜ、このタイミングで『DAYS4』を出すことになったんでしょうか。

森田:3年前の番組10周年の時からずっと制作する構想はありつつも、なかなかアルバムを出さないアーティストの方に近いかもしれませんが、重たい腰が上がらずにいた時に、WIZYを担当しているレコチョクの方が、『SOL』を非常に愛してくれていて。以前出した3冊を手元に持っていて「その4冊目を、WIZYを通して発刊しませんか?」という提案をもらいました。本当に番組を愛してくれているのが企画書からも伝わってきたし、番組を10代のうちに聴いていてくれていた子(リスナー)が社会に出て、僕らと出会ってくれて、そうやって背中を押されたら、もう作らないわけにはいかないですよね。

ーーいい話ですね。『DAYS4』は、校長先生がやましげ校長(山崎樹範)からとーやま校長(グランジ遠山大輔)にバトンタッチしてから初めての記憶本です。

森田:だからこそ、今回はとーやま校長の視点で、彼が見てきた8年間が描ければいいかなと思っています。『DAYS4』は、2010年代初頭からいままでの期間を振り返るものでもあるので、“あるラジオ番組を通して見た、2010年代の10代の実録”というのが大きなテーマです。

『SCHOOL OF LOCK! DAYS3』

ーー実際に制作を進めてみて、これまでと一番違うなと思ったことは?

森田:今回は9年という歴史があるぶん、当時は10代だけど、今は社会人になっている人も対象になりますので、そんな方にも手にとってもらえるような本にする、というのは大きく目的が違う部分ですね。「今の10代って、どんなことを考えてるのかな?」と、仕事帰りのサラリーマンの方が手に取ってくれてもOKな一冊にしたいと思っています。

ーーパートナーにWIZYを運営するレコチョクさんが加わったことで、レコチョクさんが持っている購入者のデータを使って、現在20代の方にもプロジェクトの案内を出されたそうですね。これはメリットになりますか?

森田:『SOL』は10代向けなので、とても力強いメリットです。あと、僕らとしては、前任の教頭だったマンボウやしろさんが、夕方帯で20代向けの『Skyrocket Company』という番組をやっているので、『SOL』と『Skyrocket Company』が番組連動して、この本のことやクラウドファンディングを使う意味について解説していく企画を想定中です。

ーーWIZYを含む“クラウドファンディング”サービスについて、森田さんが思うこととは。

森田:一言で語るのは難しいですが、元来ラジオ番組がリスナーの方々からのメールや届いたリクエスト曲で形成されている、つまり「みんなの想いを集めて創り出されたもの」という側面で考えると、クラウドファンディングとラジオはある意味近しいものと言えます。世間的には懐疑的な意見もあるかもしれませんが、そんななかで各社がサービスを始めたことで、参入障壁も下がったし、親しくさせてもらっているレコチョクさんが「音楽に特化したサービス」としてWIZYを始めてくれたことで、僕らとしても挑戦しやすくなったことは確かです。決済手段が今以上に増えると、もっと若い人も支援できるようになると思うので、ユーザー側のハードルを下げていくことにも期待したいです。

ーーTOKYO FMさんは同じくレコチョクさんと組んで『未確認フェスティバル』を開催しています。同フェスは『閃光ライオット』を前身としたものですが、どうして名前を改めてスタートしたのでしょうか。

森田:『SCHOOL OF LOCK!』の延長線上で、10代限定の夏フェスとして『閃光ライオット』をスタートさせたんですが、8年目にして、一緒に組んでいたパートナーと円満にお別れすることになりました。これも番組本(『DAYS』)同様に、相当なエネルギーを使うプロジェクトなので、しばらくお休みしようかと考えていたのですが、そのときにひょんなことからレコチョクの方に「NTT ドコモさんとタワーレコードさんと組んで、『Eggs』という新人アーティストの音楽活動支援プラットフォームを始めるから、一緒に10代限定の夏フェスをやろう」と声をかけてもらいまして。驚いたんですけど、同時に何かの暗示だとも思ったんですよね。

ーー暗示とは?

森田:『閃光ライオット』は、当時のパートナーである最高にロックな方と意気投合して始めたんですが、2年目の開催中、その心強いパートナーが急遽、帰らぬ人となってしまいました。それ以降、その方の意思を宿した仲間たちと共に奮闘してやってきたのですが、切りのよいタイミングが来たのもあり、このフェス自体を休止、または終わらせることも考えていました。そんな時期にレコチョクの方から思いもよらない場面で、一緒にやりませんか?と声をかけてもらったので、暗示というと大げさですが、これは天国から「このフェスは、続けろよ!」って言ってるんだなあと思って。なので、『閃光ライオット』を一緒に作ってきた方々にも改めて報告をして、名を改めてスタートした、というのが『未確認フェスティバル』立ち上げの経緯です。

ーー実際にEggsと組むことで、変化した部分は?

森田:以前は1次審査でCDを送ってもらって、2次審査で750人程に絞ったうえで全国8~10都市に飛んでその全員に会いに行く、という極めてアナログな手法を取っていたんです。各都市で2日~3日間、ずっとスタジオで代わるがわる10代の子に会うというのは、なかなか気力のいることでした。そのおかげで高校時代の米津玄師くんとかに直接会えたりと、かけがえのない経験を得られたことも間違いないんですが、Eggsを使い始めたことで、もっと効率よく、それぞれの音源や動画をネット上で審査できるようになったのは大きな進歩だと思います。応募者もオープンになることで、審査段階からファンがついたり、SNSが可視化されることでアップしている音源以外のクオリティも確認できたりと、良い意味でも悪い意味でもすべて筒抜けになったことで、結果、審査の精度も上がった気がします。

ーーたしかに、過程がオープンになることで、よりフェアに見えますよね。

森田:そうですね。あと、リスナーの方々に審査へ参加してもらうことで、リアルなマーケットの感覚を知ることもできて、僕としては収穫も多かったです。

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