小熊俊哉の新譜キュレーション
トム・ミッシュや奥田民生のレコーディング模様も 宅録/多重録音の今を伝える5作
Princess Chelsea「I Love My Boyfriend」
デイヴの「Play」と併せて紹介したいのが、ニュージーランド出身のPrincess Chelseaことチェルシー・ニッケルによる「I Love My Boyfriend」のMV。ここでは彼女も多彩な楽器をプレイするほか、ピンク色のマイクを握ってボーカルも披露(MVの監督も本人)。YouTubeのコメント欄に“50's love songs on LSD”とあるように、とろけるほどドリーミーな曲調は狂気すら感じさせるほど。このガーリーを極めすぎてネジが外れた感じは、まさしく彼女の真骨頂でしょう。
宅録プリンセスとして愛されてきた彼女は、上述の曲も収録した通算3作目のアルバム『The Loneliest Girl』を9月7日にリリース。悪意がてんこ盛りなタイトルとジャケットだけ見ても、名作であることは間違いなさそうです。ちなみに彼女は、ニュージーランドの<Lil' Chief Records>所属。ここは個性派のポップアクトが集う優良レーベルで、今をときめくSuperorganismの前身バンド、The Eversonsも在籍していました。気になる方はぜひチェックを。
Maxwell Young『Daydreamer』
宅録というと、ギター弾き語りのデモテープみたいなものを連想しがちですが、時代の変化とともにDIYなシンガーソングライター像も変化していったのでしょう。こちらもニュージーランド出身のMaxwell Youngによるデビュー作『Daydreamer』では、内省的な歌心とヒップホップのビートが一体となった、独創的なベッドルーム・ポップが奏でられています。
まだ18歳である本人曰く、ケヴィン・アブストラクト(渡辺志保さんが以前紹介していたBROCKHAMPTONのリーダー)と映画『(500)日のサマー』に影響されたという本作は、パーソナルな質感のなかにポップセンスが光る好内容。夜に映えるデカダンな佇まいは、この連載でも取り上げたイギリスのKing KruleやPuma Blueとも共振している気がします。それに加えて、同じくDIYな文脈で注目されているボストンの才女、Clairoの参加も見逃せないでしょう(彼女のデビューEP『diary 001』も傑作!)。一応補足しておくと、超絶イケメンなのであっという間に人気者になりそうです。