トム・ミッシュや奥田民生のレコーディング模様も 宅録/多重録音の今を伝える5作

ジョージ・クラントン『Slide』

 最後に取り上げるのは、「ESPRIT 空想」などの別名義でも知られるヴェイパーウェイヴ界のカルトヒーロー、ジョージ・クラントン(すごい名前)による2作目『Slide』。アーバンなサンプリングに始まり、レイヴ、アシッドハウス、シューゲイザー、シンセポップなど80年代後半〜90年代初頭におけるエッセンスを詰め込みながら、いろんな文脈を何周も回りまくった結果、2018年現在のサウンドとして成立してしまった怪作です。

 このあたりは自身が主宰するレーベルで、かのショーン・オヘイガン(The High Llamas)も在籍していた80年代の隠れ名バンド、Microdisneyをリイシューしていたり、Spotifyのお気に入りプレイリスト(計13時間!)にPrefab SproutやThe Stone Roses、Slowdiveといった面々が入っていたりと、確信犯なのは明らか。そういった膨大な情報量をインプットしたうえで、ある種の青春モードに振り切ったのが勝利の決め手でしょう。それに何より、いわゆるインディバンドのシーンとはかけ離れたところから、こういう作品が出てきたのが“正解”である証拠。かつて一世を風靡しながら、気づけば収束していたネット発の宅録ムーブメント、チルウェイヴをここにきて総括するようでもあり、とにかく凄まじいアルバムだと思います。

■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部、音楽サイ『Mikiki』を経て、現在はフリーで活動中。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。Twitter:@kitikuma3

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