『うたコン』番組プロデューサーが語る、“掛け合わせの美学”と“NHKホールから生放送”へのこだわり

NHK『うたコン』Pインタビュー

 音楽の魅力を広く伝えるメディアとして、大きな機能を果たすテレビの音楽番組。CD全盛期に比べて番組数が減少する中、それぞれ趣向を凝らした番組づくりが行われている。そんななかでも、注目すべき番組に焦点をあてていく連載「テレビが伝える音楽」。第七回では、2016年から放送がスタートした『うたコン』(NHK総合)のチーフ・プロデューサー、原田秀樹氏にインタビューを行った。毎週生放送を行い、10%前後と高い視聴率を維持し続けている(参考:ビデオリサーチ視聴率データ)『うたコン』。原田氏が番組にかける思いを聞き、人気の秘密に迫った。(編集部)

「掛け合わせの美学は常に意識しています」

ーー『うたコン』が始まる前、同じ枠で『NHK歌謡コンサート(旧・歌コン)』が放送されていました。

原田:NHKでは火曜日20時の枠で伝統的に歌番組が何十年も続いていたんですね。古くは『NHK歌謡ホール』『NHK歌謡ステージ』、1990年代の途中から『NHK歌謡コンサート』が始まって、結果的にそれが20年以上続く長寿番組になりました。『歌謡コンサート』も生放送でしたが、演歌や歌謡曲といったジャンルの番組だったので、視聴者はそこに特化したファンの方が多かったと思います。

ーー『うたコン』は2016年からスタートしています。

原田:2016年にそれまで20時にスタートしていた番組が19時半に繰り上がることになったタイミングで番組を改編することになった。それをきっかけに、番組自体もリニューアルしようということになり、『うたコン』という新番組を立ち上げました。番組制作のノウハウやNHKホールからの生放送という売り自体は『歌謡コンサート』をそのまま引き継ぎながら、中身を今の時代に向けてアップデートしていったんです。

ーーたしかにアイドルから演歌歌手まで出演していて、ジャンルが幅広くなったという印象です。

原田:今の時代、色んな音楽や情報がフラットに入ってくるので、ジャンル分けすることにあまり意味がない。ジャンルに関係なく良い音楽をどんどん取り込んでいくような聴き方に馴染みがあると思うので、テレビ番組も特定の世代やファン層に向けたものだけじゃなくて、もっとボーダレスな企画ができると思っています。

ーー出演者のラインナップにはどんなこだわりがあるんでしょうか。

原田:当然、素敵な歌をしっかり聴かせていただけるアーティスト、というのをベースにしています。日本の戦後からの音楽ヒストリーを見ると、実に多様なジャンルの音楽があって、音楽性やスタイルも本当に幅広く、各時代を映しているような歌がありますよね。それを全て網羅するのは難しいですが、時代を象徴する歌の輝きは変わらないですし、たとえば50年前の曲であっても今日初めて聴く人にとっては新曲のように聴こえる。「2018年の視点でその曲を取り上げたらどういう風に聴かせられるだろうか」とか、「ずっと昔から歌い継がれているような曲を今のアーティストが歌ったらどんな風に聴こえるんだろうか」、と考えながらやっています。例えて言うと、調理人が昔ながらの食材を仕入れて、誰も食べたことのないような料理を提供する。その調理人を制作スタッフが中心となってトライしているというようなイメージです。

ーー「海に恋して 夏ソング」(7月17日放送回)など、特集企画も魅力的です。企画を考える際、どんな工夫をされていますか。

原田:昔は1枚ずつレコード屋の棚を漁って調べないといけなかったですが、今は検索したらABC順、あいうえお順にジャンルの分け隔てなく一覧で見ることもできる。企画を立てる時も既存のイメージにとらわれずに、このアーティストにこんな新機軸を、という掛け合わせの美学はスタッフ全員常に意識しています。そこが演出するディレクターチームの腕の見せどころです。

ーー様々な企画を立てるのはもちろん、毎週生放送かつ生演奏というのはかなりの労力ですよね。

原田:そのおかげでアーティストだけでなく、ダンサーや構成作家などとの関係性もどんどん濃くなっています。また、毎週企画を考えなければいけないということが自分たちの演出力の向上にも繋がっている。仮に急に長尺の音楽特番をやってください、と言われたとしても、ただ曲を並べるだけではなくて、どうやったら視聴者の心に響くか、という視点で考える癖が日々ついていると思います。

ーースタジオではなく、NHKホールから生放送しているのも『うたコン』ならではです。

原田:私たちにとっては非常に意味のある会場です。山下達郎さんはNHKホールで毎年コンサートをやっていて、MCでつねづね「NHKホールはアシュケナージから『紅白歌合戦』までありとあらゆる音楽の生き血を吸ってきた舞台なので、ここに立つと全然音の響きが違う、その人たちの何かが乗り移ったような気分になる」とおっしゃっています。そんな場所で私たちが毎週生放送するのは身が引き締まるような思いです。自分たちのホームグラウンドから最高のものを発信していきたい、と気合が入りますし、出演するアーティストがリハーサルの時から100%の力でぶつかってきていただいているとも感じます。

ーー原田さんは『紅白歌合戦』にも関わられているんですよね。

原田:『うたコン』は『紅白』の中枢を担っているメンバーがやっています。私自身は1990年にNHKに入ってエンターテインメント番組部というところに配属されてから、音楽番組のディレクターをずっとやってきて、『紅白』『SONGS』『ふたりのビッグショー』などを手がけてきました。 2011年、東日本大震災があった年の『紅白』で制作統括、つまりチーフプロデューサーを担当しました。こんな年にお祭りみたいな番組をやっていいんだろうか、という議論がずっとあったんですけど、結果的には本当にやって良かったと思いますし、自分の中でも貴重な経験になりました。

ーー『うたコン』は“ミニ紅白”のような番組かもしれませんね。

原田:本当にそう思います。パフォーマンスが目の前の観客にダイレクトに伝わって、生の反応が見える。ある種独特のグルーヴ感が生まれる。『うたコン』一夜限りのためにアレンジャーが譜面を書いて、ミュージシャンたちもその瞬間の生放送のためだけに1日中リハーサルして本番に臨む。そのひとつひとつが画面に表れていると思います。

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