大野雄二トリオ『LET'S FALL IN JAZZ』Motion Blue YOKOHAMA公演レポート
大野雄二、“音”に託したジャズへの思いーー『LET'S FALL IN JAZZ』公演レポート
ステージには左からアコースティックピアノ、コントラバス(ウッドベース)、ドラムスが順に並ぶ。すべて生楽器による、シンプルかつ奥深いサウンドが満員のジャズクラブに響き渡る。
大野雄二トリオが11月13日、ニューアルバム『LET'S FALL IN JAZZ』の発売記念ライブをMotion Blue YOKOHAMAで開催した。“ルパン・ミュージックの生みの親”としてジャンルや世代を超えたファン層を持つ大野雄二だが、この日はジャズピアニストとしての魅力に的を絞ったステージ。歌うようにテーマメロディを奏で、存分にアドリブを繰り広げ、最後の最後まで観客をジャズの楽しさに引き込みながら全16曲を届けた。シングルトーン(単音)とコード(和音)の絶妙なバランス、豪快なグリッサンド(滑るように音高を上げ下げするテクニック)や鍵盤の乱れ打ちを交えながらのプレイに、筆者は改めてピアノ弾き・大野雄二の凄味を感じた。
オープニングナンバーは、映画『エデンの東』などの音楽で知られる作曲家ヴィクター・ヤングが1928年に書いた「SWEET SUE, JUST YOU」。いまから90年も前に生まれたアメリカンソングが2017年の横浜で、しかも目の前で仕立て直されてゆく。アイコンタクトを交わしながら行なわれる3人の“音の会話”は弾みに弾む。
大野のオリジナル曲「MISTY TWILIGHT」、フランク・シナトラ他の名演で知られる「MY ONE AND ONLY LOVE」の後、メンバーが紹介された。「最高のベーシスト、上村信!」、「最高のドラマー、市原康!」……簡潔だが、これ以上に雄弁なフレーズがあるとは思えない。市原(Dr)は初代You & Explosion Bandに在籍経験があり、現在は大野雄二トリオのほかにYuji Ohno & Lupintic Sixでも活躍するオールラウンドな名手。このトリオではスティックよりもワイヤーブラシ(より繊細な音を出すために使われる)を多用し、陰影に富んだプレイでメロディラインを大いに引き立てた。上村(Ba)は、このトリオに加入して3年目を迎えた。「本当に縁の下の力持ちという感じ。すごく良心的なベースを弾く」と、大野も賞賛を惜しまない。厚みのある音色、指弾きと弓弾きの双方を用いてのアプローチは、ウッドベースならではの快感に満ちている。
ファーストセットの後半は「シークレット・デザイアー」「LOVE SQUALL」「犬神家の一族~愛のバラード」と、大野雄二の自作が続いた。数々の歌手や楽器奏者が表現してきたメロディを、作曲者本人のピアノ演奏で味わうのは贅沢の一言に尽きる。