『Billboard Japan Hot100』チャート分析
“セールス”と“話題性”の乖離をどう捉えるか? 最新複合チャートに見る音楽シーンの現状
【参照:ビルボードジャパン チャート・インサイト(2017年9月11日付)】
以前も書いた通り、ビルボードジャパンチャートは「話題性」を反映しやすい。CDの売上枚数だけでは見えてこない近頃の音楽のヒットの形がこのランキングにはよく表れているだろう。しかし、今週のチャートはなかなか面白いことが起きている。
DAOKO×米津玄師「打上花火」が3週連続で全部門トップ10入りのはずが……
先週に引き続き全部門でトップ10入りを果たしたDAOKO×米津玄師「打上花火」は、総合2位にランクダウン。一方で、ラジオで17位、動画再生で38位と伸び悩んだAKB48「#好きなんだ」が総合順位で1位を獲得した。これは、「パッケージ購入/デジタルセールス/ストリーミングの合算値」の比重を他と比べて高くしているからであり、無料で聴いたりツイートすること(=接触)よりも楽曲に向けて対価が支払われたこと(=所有)の方がより総合順位に影響しやすく設定されているためだ。
つまり、ツイートでも動画再生回数でも絶好調ではあるものの発売から少し時間が経ってセールスは落ち着いてきた「打上花火」は、「#好きなんだ」が叩き出した初週売り上げ108万枚(オリコン調べ)という桁違いの「所有」の大きさには到底敵わなかったというわけである。
重要視される音楽の「所有」
このあたりのバランスが複合チャートの”腕の見せ所”でもあるのだが、複合的な要素をまとめて一つのランキングとして見せるときに、CDの売り上げやダウンロード数といった指標が依然として重要な地位を占めているのがビルボードジャパンチャートである、というのは頭の片隅に常に入れておかなければならない。つまり、いくらTwitterやYouTubeで話題を掻っさらっても、やはり「曲が売れる」ことが重要なのである。
しかし、だ。オリコンによれば週間売上が4万9千枚となったPerfume「If you wanna」よりも、ルックアップ(=PCによるCD読み取り回数)で低い値となった「#好きなんだ」のために生産された100万枚以上ものCDは、いったいどこへ消えたのだろうか……。同様に、セールスで2位に付けたBTOB「Brand new days」は、ルックアップにおいてはなんとランク圏外である。つまり、実際にはほとんど聴かれていないCDが購入されている現状なのにも関わらず、音楽の「所有」を示す数値に重きが置かれているのは、いささかもどかしい気分ではないだろうか(AKB48もBTOBもCDプレーヤーに直接入れて聴かれているのでは? という指摘は一応成立するが……)。
テレビ特番によりTwitterで話題に V6「愛なんだ」
ところで、先週は『Animelo Summer Live 2017』にて11年ぶりにサプライズ披露された「ハレ晴レユカイ」がツイート1位を獲得したことからも分かるように、ツイート部門は毎週各地で起きた出来事が直に反映されていると言えるだろう。発売から一年近く経過した星野源「恋」も、動画削除要請の話題によりいまだこの部門では5位と高い位置に付けている。また、ライブでサプライズ披露された欅坂46のアルバム曲「夏の花は向日葵だけじゃない」さえも17位にランキング入り。そんな中、地上波特番の効果で、なんと1997年発売のV6「愛なんだ」が首位をマークした。
「曲が売れること」と「話題性」の天秤
このように、アルバム収録曲であったり10年以上前の曲でさえもがチャートに登場したりするのが、ツイート部門の特徴である。ただし、もし総合ランキングがこういった「話題性」に傾き過ぎてしまうと、アーティストは新しい作品を生み出すモチベーションを失うだろう。「曲が売れること」と「話題性」の天秤で、複合チャートはどちらにどの程度の重石を置けばよいのか。今週の結果は、そうしたテーマを今一度考えさせられるものであった。