andymoriは特別なバンドだった 樋口毅宏と宇野維正が「小山田壮平の才能」を語り合う

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ライブ会場には、ファンからの寄せ書きが。樋口氏も「こんなにも「青春」を思いおこさせてくれるバンドはなかったよ。」とコメントを寄せている。

 andymoriが7月21日と27日に大阪と東京で、解散前の最後のワンマンライブとなる『andymori ワンマン ひこうき雲と夏の音』を開催した。本来は、2013年9月24日に開催される予定だった日本武道館公演『andymori ラストライブ 武道館』をもって解散することを宣言していた同バンドだが、同年7月4日にボーカル・ギターの小山田壮平が重傷を負ったため、解散ライブが延期となっていた。同バンドは、このワンマンライブの後、4本のライブイベントに出演。8月29日の『SWEET LOVE SHOWER 2014』への出演をもって、正式に解散するという。

 デビュー以来、熱心な音楽ファンから高い評価を得ていた同バンド。『さらば雑司ヶ谷』『日本のセックス』『甘い復讐』などの著作で知られる小説家・樋口毅宏氏と、リアルサウンドでもお馴染みの音楽ジャーナリスト・宇野維正氏も、andymoriの熱心なリスナーだという。

 andymoriとは果たして、どのようなバンドだったのか。東京ワンマンライブを観覧したという2氏に、バンドのスタンスやその音楽性、そしてフロントマン小山田の人間性や芸術家としてのあり方まで、たっぷりと語り合ってもらった。(編集部)

樋口「andymoriのライブは、アッパー系でもなければ、ウェットな感じでもなかった」

樋口:andymoriのライブを初めて観たのは早稲田の学園祭のライブで、知り合いの編集者が楽屋に連れて行ってくれたんですけど、小山田さんがあまりにも可愛い顔立ちの男の子でビックリしました。2回目は一昨年、アートスクールの対バンで、横浜の小さい箱の30分くらいのライブでした。去年の武道館解散ライブは絶対に行こうって決めていたんですけど、小山田さんの怪我で中止になっちゃったから、今回のワンマンでようやくちゃんと観ることができました。

宇野:僕もワンマンは久しぶりでした。その間も、短いのはフェスとかで何度か観てますけど。andymoriのライブは、わりとムラがあるんですよね(笑)。でも、この間のZepp Tokyoのライブは、初っ端の「1984」から小山田君の声も完璧に出てて、演奏もバシっと決まってて、「おぉ!」と思った。

樋口:でも、今回の東京でのライブも、バンドにとっては最後のワンマンだというのに、キラーチューンを畳みかけるでもなく、実に淡々としていた。「今までありがとう」的な、泣かせるMCも一切なかったから、もちろん小山田さんの意図的なものなのだろうけど。

宇野:でも、andymoriのライブをずっと追ってきた人に言わせると、やっぱり東京のやつはめちゃくちゃ良いライブだったみたい。今回のライブは、小山田君が大怪我から復帰して、いよいよ解散する前の最後のワンマンだったんですけど、前週の大阪でのワンマンの序盤はさすがに緊張していたというか、慣れない感じだったみたいです。

樋口:なるほど、そうだったんですね。僕が高校1年の時に、BOOWYが東京ドームで解散コンサート、所謂「LAST GIG」に行ったんですけど、その時もあっけらかんとしていて、泣いている人はいなかった。チケットを取るため全国から電話が掛かってきて池袋の電話回線がパンクして、一般紙にも何事かと取り上げられたぐらいの社会現象になったから、観客は「自分は時代の目撃者だ」という興奮と祝祭感に満ちた感じだった。でもandymoriのライブのほうはそういう雰囲気ではなく、アッパー系でもなければ、ウェットな感じでもなかった。言ってみれば、バンドの一過程とさえ感じるようなライブでした。

宇野:なにしろアンコール前の本編最後の曲は新曲で、しかも「おいでよ」っていう曲でしたからね。しかも、解散する直前のバンドとは思えない、すげえいい曲(笑)。今回、大阪は野外でしたけど、東京はZepp Tokyoという極めて日常的なジャパニーズ・ロック的空間だから、より素っ気ない感じに映ったのかもしれない。もうひとつ思ったのは、フロアの前の方にいたオーディエンスも曲のリズムに合わせて手を前に振る、いわゆるジャパニーズ・ロック的なノリで、そういうノリを否定するつもりはないけれど、「結局届いたのはそこが中心だったんだ」とは改めて思いました。このバンドのすごさがちゃんと世間に広く伝わっていたら、もっといろんなタイプのお客さんがいてしかるべきだったと思う。ここだけの話、この日の客席に来ていたミュージシャンはすごい顔ぶれだったんですよね。SEKAI NO OWARIのメンバーやきゃりーぱみゅぱみゅは観に行ったことをツイートもしてましたけど、他にも「おぉ!」と思うミュージシャンやバンドのメンバーが来ていて。同業者にはそのすごさは伝わっていたけど、それが一般層まで広がらなかったってことだと思う。

樋口:オーディエンスもお行儀が良いっていうか、モッシュする人がひとりもいなかった。残念なのは個人的に好きな曲もほとんどやらなくて、一緒にシングアロングしたのは「空は藍色」だけ。

宇野:とてつもないバンドなんだけど、すべての曲が傑作というわけではないんですよね。あと、さっき樋口さんも言っていたように、僕も昔、まだ彼らがインディーズでデビューしたばかりの頃に小さなライブハウスで小山田君とすれ違った時、「なんだ、このキラキラした男の子は!」って驚いていたら、数分後にステージに上がってて、そこで彼がandymoriのメンバーだということを初めて知ったんですけど(笑)。でも、ステージ上でさらにキラキラするかといったら、そういうわけでもない。ステージ上では自分の輝きをわざと出さないようにしているんじゃないかって思うくらい。よく、中学生くらいの女の子で、自分の本当の美しさに気づいていない子っていたりするじゃないですか。彼は、そんな感じのまま30歳になってしまった男の子って感じがするんですよ(笑)。

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