解散前最後のワンマン『ひこうき雲と夏の音』に寄せて
andymoriは特別なバンドだった 樋口毅宏と宇野維正が「小山田壮平の才能」を語り合う
宇野「小山田君はとてつもない天然というか、完全に古い芸術家タイプ」
樋口:小山田壮平という人は、あの年代では群を抜いた才能の持ち主ですね。
宇野:ソングライターとして、本当に桁が違う才能だと思う。メロディの天才であると同時に言葉の天才で、たとえば小沢健二と比べたときに、言葉は小沢健二の方が勝っている部分があるかもしれないけれど、なにもないところからメロディをもってくる才能は圧倒的に小山田君の方が勝っている。たとえば岡村靖幸と比べたときに、メロディは岡村靖幸の方が引き出しをたくさんもっているかもしれないけど、言葉の引き出しは小山田君が勝っている。ずっと自分はそのくらいの才能だと思ってきました。あのくらいとんでもないレベルでメロディと歌詞の才能が拮抗しているアーティストって、ほかにはaikoくらいしか思いつかない。
樋口:僕がつい比べ合わせてしまうのは、サニーデイ・サービスなんです。スリーピースで、ボーカルが作詞作曲のワンマンバンドで、やっぱり青春について歌っている。
宇野:たしかに出てきた時はそういうイメージがあったし、実際、曽我部君はインディーズ時代のフライヤーにコメントを出したりもしていた。スタッフも、人脈的に近いですしね。サニーデイ・サービスは吉祥寺や下北沢について歌っていて、彼らは西荻窪や高円寺について歌っているというのも、近しい感じがします。ただ、確かにスリーピースだし、ボーカルの才能が突出しているバンドだけど、曽我部君はすごくいろいろなことを考えているモダンなミュージシャンで、小山田君はとてつもない天然というか、完全に古い芸術家タイプ。そこが一番違うと思います。
樋口:デビュー時に山崎洋一郎さんがリバティーンズを引き合いにして、一点突破のバンドだと評していたけど、小山田さんはピート・ドハーティですね。生まれてくる時代が遅かったのではないかという感じ。ムチャクチャやりすぎる。
宇野:リバティーンズみたいな刹那的な感じは、後藤大樹君がドラムをやっているセカンド・アルバム『ファンファーレと熱狂』までで完結しているように思う。そう考えると、本来は2枚か3枚で終わっていたバンドなのかもしれないですね。それでもなんとか5枚アルバムが出たのは、岡山健二君が入ってくれたからで。そう考えると、andymoriというバンドは、ずっと非常に危ういバランスの上に成り立っていたんだと思う。
樋口:だとしたら、僕は岡山君が入ってくれてよかったと思っています。3枚目の『革命』からが最高ですよ。5枚の中から1枚選べって言われたら、僕は『革命』。でもライブではやってくれない。「楽園」とか「Weapons of mass destruction」とか、すごくシングアロングしたいのに。去年2枚同時リリースしたライブ盤にも入っていない。
宇野:僕は『ファンファーレと熱狂』が1番好きかな。2番目が『革命』。多分、ファン投票とかをしたら、ファーストの『andymori』もかなり上にくるんじゃないかな。でも、『革命』がリリースされた時は、本当に興奮しました。あの作品は言葉もすごく削ぎ落とされていて、楽曲もすごくキャッチーですよね。ここからブレイクするぞって思わせてくれる作品でした。後から振り返ると、5枚のアルバムの中ではわりと異色の作品なんですけど。
樋口:僕が残念なのが、こんなに良いアルバム出しているのに、彼らはオリコンのベスト10とかにほとんど入らなかったってこと。
宇野:1枚だけ、4枚目の『光』が8位に入りましたね。
樋口:でも8位でしょ? 考えられないよ、こんなに良い歌を歌っているのに。
宇野:でも、それは小山田君本人のせいかもしれないって思うんですよ。僕はよく仕事をしているカルチャー誌で、何度も編集者を通して取材のアプローチをしてきたんだけど、ファッション誌の『装苑』で一回インタビューした以外は、なかなか話がうまく着地しなくて。スタッフの腰が謎に重いなぁとずっと不満に思っていたんですけど、今思えば小山田君を動かすのが難しかったんだと思う。andymoriって、あらゆる意味でのタイアップも一度もやってないでしょ? それと、彼らは現体制になってからロック・イン・ジャパン・フェスティバルに一回も出てない。世の中的にはいわゆるロキノン系だと思われているかもしれないけれど、実は何系でもないんだよね。他のバンドだったら絶対に飛びつくような話を、彼らはことごとく拒否していた。
樋口:陳腐な言い方になっちゃうけど、小山田さんは売れたくはないのかな?
宇野:自分の愛する音楽を、自分が気持ちよく奏でられればそれで良いというタイプなんでしょうね。もちろん、世の中に伝えたくないというわけではないと思うけれど、そのために何かをするくらいなら、もっと音楽に集中させてくれよという感じだったのかもしれない。だから、やっぱり古いタイプの芸術家ですよ。もしかしたら、一番近いのは尾崎豊なのかも。顔もキレイだし、歌声もすごいし。ギラギラしてない尾崎豊みたいな。
樋口:でも尾崎の場合は、自分の役割をちゃんと引き受けていましたよね。みんなが自分にこういうのを求めているんだなって考えて、“尾崎っぽい”っていうイメージを演じていたし、その果てに彼は死んでいったんだと思う。でも小山田さんの場合は……。
宇野:音楽以外のことは何も視野に入ってない感じですよね。先日のライブでも、バンドのメンバーも、彼には何を言っても仕方がないという感じが伝わってきましたよね。MCで藤原君が「良かったね、帰って来れて」って言って、小山田君は「オーイェー!」って応えるんだけど、その後に小さな声で「悪かったですね、本当」って言って。それに対する藤原君の言葉が「別にいいけどね」っていう(笑)。そういう関係性がこのバンドのあり方だったんだと思います。
樋口:小山田さんと藤原さんが西荻窪のアパートに住んでいて、近所の銭湯の亀がいなくなった話をしていたでしょう? 小山田さんが「(行方不明になったけど)亀は万年生きるからね」ってMCをして、あれみんな心の中でツッこまなかった? 「小山田、おまえは何年生きるんだろうね!」って。