細野晴臣が語る“音楽の鉱脈”の探し方「大きな文化の固まりが地下に埋もれている」

「ノリが伝染していくのがポップ・ミュージック」

――ああ、なるほど。

細野:ええ。だから…非常時に強いミュージシャンですね、僕は(笑)。考えてみると、アメリカで大恐慌っていうのが1930年前後に起こりますよね(1929年にウォール街大暴落)。その頃の音楽が豊かなんですよ。ガーシュインが名曲をいっぱい書いたり、アーヴィング・バーリンもいて。名曲が出揃ったんですね。そういう時に人々は音楽に何かを求めたんでしょうね。癒やしをね。現実逃避なのかわかんないけど。でもバブルの時は商業主義的な音楽が豊かになるし、捨てたもんじゃない。アイスランドの音楽は素晴らしかったですからね。ふだん出てこられないものが出られる時代がバブルで。それはそれで素晴らしいなと思いますね。不況の時はもっとこう…本質的なものが出ざるをえないというか。ガーシュインみたいな人がね。そういう風にはなりたいと思うんですけど。

――今はどういう音楽が求められているとお感じですか。

細野:求められてるとは思わないんですね。自分で勝手にやってるだけで。若い人は若い人たちの音楽聴いてるからそれでいいじゃん、と思いますよね。で、僕の世代はみんなポール・マッカートニーを見に行く(取材は5月15日)、それでいいじゃん、と思いますね。僕は何をやってるかっていうと、周りのミュージシャンに何かを伝えたいから、演奏をやってる。かっての40年代50年代のノリを…自分の中にもあるノリを、表現して、ミュージシャンに伝えたいっていう。いわばプレイヤーですね。それまで僕はかなり脳みそで音楽を作っていて、ひとりでここ(白金のオフィス)で、コラージュしたり電子的に作ってたんですけど、今は身体感覚で伝えていかないと残らないんです。ノリっていうんですかね、ほんとにずーっとやってないと伝わっていかない。それをやってるんです。

――そういえば最近カヴァー曲を歌われるケースが非常に増えてますよね。

細野:そう、それもそうなんです。

――何か関係してますか。

細野:ええ。自分で作るよりもそっちのほうが大事なんですね。

――「自己表現」よりも「伝える」こと。

細野:うん。…ちょっとまじめに聞こえるけど…ノリが伝染していくっていうか。それがポップ・ミュージックなんで。自分もそういうとこに生きて育ってきたから。

――以前キース・リチャーズが、自分たちの役目は先人から伝統を受け継いで後輩に渡していくことなんだと言ってました。

細野:長くやってる人はみんなそこに気がつくんですね。自分はその中の「繋ぐ存在」に過ぎない…っていうか。そこにプラスαを付け加えていくっていう、ね。

――それに気づいたのはいつごろなんですか。

細野:うーん…60歳前後ですね(現在、細野氏は66歳)。歳とってから。ははははっ。

――じゃあそこに気づくまでは、伝えるというよりは、自分がオリジンになってやろうという。

細野:うん、それも強いですよね。曲作らなきゃ!とかね。ソロ・アルバムっていうリクエストがあるわけで。するとやっぱり全曲オリジナルを求められてるんですよね。カヴァー入れるといやがられる(笑)。めんどくさいですからね。版権とか。

――ああ、著作権の処理がめんどくさいと(笑)。

細野:ええ。大変なんですこれが(笑)。
(後編【細野晴臣が“音楽の謎”を語る】に続く)

(取材・文=小野島 大)

■リリース情報
『HOSONO百景』(河出書房新社)
発売:3月25日
価格:1,836円

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