細野晴臣が語る“音楽の鉱脈”の探し方「大きな文化の固まりが地下に埋もれている」

「僕はどっちかというと不況に強い音楽です(笑)」

――逆に言えば、細野さんのリスナーとしての人生は、そこから隠れた薄暗がりというか、残りの2割の見えない謎を探す旅でもあったと。

細野:ええ。実はそういう音楽やってる人も聴いてる人もいっぱいいてね。世界中に。表にはあまり出てこないだけなんですね。主流じゃないから。メディアに乗れない音楽っていうのがあるわけで。そこがやっぱり「宝物」の山なんですね。昔はそうじゃなかったんですよ。単純だったんです。そういうものがヒットしてたから。ヒットしない曲はやっぱりつまんなかったんですね。フックがないんです。さっき言った「2割」っていうのはフックってことでしょうね。鈎っていうかひっかけというか。高尚なことではなくてフィジカルなことだし、下世話なことかもしれないんですけど、そのフックっていうのが大事なんですね。最近そのフックが変わってきたんです。言葉だったり、歌手のキャラクターだったり。うん…最近の音楽のことは僕はわかんないんで語れないや(笑)。

――昔の音楽に興味を持つことは決して懐古趣味ではない、と。細野さんも「江戸時代にタイムスリップしてみたいという気持ちは誰にでもあるけど、それは決して懐古趣味じゃない」とも仰ってますね(24P)。確かに江戸時代をリアリタイムで知ってる人なんて誰もいないんだから、ノスタルジーにはなりようがないし、むしろ新鮮ですらある。

細野:若い人がそういうのに憧れるのは…楽な生活っていうのか、楽しく、楽な生活を求めてるからだと思う。たとえば職人たちがいっぱいいて、月に何日しか働かないで、あとは遊んでるとかね。そこの根底にあるのは、お金がなくても幸せになれるんじゃないかっていう願いがあると思うんですよね。バブル崩壊以降の世代ですから。そういうことが身についてる世代だと思うんですよ。これからの時代も、決して豊かな未来像はないわけでね。そういうことに対する免疫っていうのかな、もっといい生活、スタイル、あるいは文化のあり方があるんじゃないかなってことじゃないかな。

――経済状況と文化状況は実は密接に繋がっていて、たとえばワールド・ミュージックのブームはバブル経済の隆盛と無関係ではなかったし、そのいっぽうで、特にイギリスなどは経済状況が悪くなって、政府が抑圧的になればなるほど面白い音楽が出てくるという現実もある。

細野:両方ありますよね。

――細野さんは、今はどういう時代だとお考えですか。

細野:うーん、どっちもないなあ(笑)。狭間っていうか。停滞感があるなあ…ええとね、今世紀初頭にエレクトロニカという音楽のスタイルのブームがあって、その中心にいたのがアイスランドなんですね。北にいくほど面白い音楽があったっていう印象だったんです。最初はわかんなかったんだけど、当時アイスランドはバブルだったんですね。それが破綻して以降、面白いものが出てこなくなっちゃった。すごく関係があると思いますね。自分にはバブルは無縁なんですけど…うーん、どうなんだろ。YMOっていつやってたんだろうな(笑)。バブル関係あるの?

――86年~87年ぐらいからバブルは始まったとされてますから、YMOはその前ですね(YMOの散開は83年)。

細野:そう、バブルの登場と共に消えたんですよ(笑)。だから僕はどっちかというと不況に強い音楽です(笑)。たとえば3.11の年ね。その時CDの新譜が出ちゃったんですよ(4月。『HoSoNoVa』)。自分としてはそんな時に出すつもりなかったんだけど、予定通り出ちゃったんですね。特殊な時にCD出しちゃったんで、その印象がすごい強くて。でもそういう時にできる音楽ってあるかもしれないなって、うすうす感じたことはあったんです。

――というと?

細野:僕は3.11の時にCDが出ちゃったというのが、すごく負い目だったんですね。

――負い目ですか。

細野:こんな時にどうやって聴かれるんだろうって。ていうのは、自分でも音楽聴きたくないし…演奏する人たちもみんなキャンセルしたりライヴがなくなったりとか、ちょっと消沈しちゃったんですね。でも出ちゃったんで。それで、聴いてる人もいて、あとでみんなに「助けられた」って言われたんで、出してよかったんだと思ったことがあった。逆に、あれから3年たった今の時代に出すのが難しいっていうかね。

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