細野晴臣が“音楽の謎”を語る「説明できない衝撃を受けると、やってみたいと思う」

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 世界各地の土地柄と音楽について語り尽くした新著『HOSONO百景』(河出書房新社)の刊行を期に行った細野晴臣へのインタビュー後編。1940年代音楽の”再発見”など、ポピュラー音楽の豊かな鉱脈について語った前編に続き、後編では自身のキャリアを振り返りつつ、リズムに対する考え方や、音楽における"謎”について含蓄あるトークを展開してもらった。聞き手は小野島大氏。(編集部)

「僕がやってきた時代を通して、ずっと少数派でした」

――文化の継承という点でいえば、この書にも、今の日本の音楽家はルーツの意識が薄らいでいるんじゃないかということを述べられてますよね(21P)。異文化を受け入れて自分のものにしていくという過程が欠如してるんじゃないか、と。

細野:まあそれも何にも知らないで言ってる意見なんで、実際はどうなんだか。昨日テレビ見てたら、リトル・リチャードに影響受けたような若いバンド…名前忘れちゃったけど(笑)、なかにはそういう人もいるんだなと。でも多くは、あんまり知らないまま作ってるんじゃないか。それは日本独特の文化を生んでもいますけど、僕にはちょっと遠い存在かな。その人はその人、僕は僕なんで。

――異文化に接することは想像力の問題だと思うんですが、その想像力が働かなくなっている。それは細野さんのように、想像力と妄想力でさまざまな異文化をミクスチャーしてきた音楽家からみれば、物足りない状況でしょうね。

細野:うんうん。まあでも…そういう人はいっぱいいなくても、何人かいればいいんじゃないですか(笑)。僕らは少数派ですよ、どっちみち(笑)。

――「どっちみち」ですか(笑)。

細野:ええ。僕がやってきた時代を通してずっと少数派でしたから。

――細野さんに関していえば、主流になる機会はいくらでもあったのに、あえて拒否して隅っこに隅っこに行こうとするという(笑)。そういう印象もありますけど。

細野:へへへへ。まあそうですね。性格がそうなんですね。ええ。YMOの時にバーンと表に出されて、街を歩くのが苦痛になった時があって。ほんとに嫌だったですね。指をさされたり。向いてなかったんですよ(笑)。今はもう、ほんとに自由にどこにでも行けるんで。

――なるほど。異文化との干渉ということで言えば、この書には70年代の初頭にはっぴいえんどのレコーディングでLAに行ったり、そのあと狭山のHOSONO HOUSEでアルバムを作った時の話が出てきます。たぶんその時が細野さんの中でアメリカ西海岸文化への憧れがピークに達していた時期だと思いますが、そのころの影響というのは、今ご自分の中でどのように消化されてますか。

細野:うん、なんだろ…その時に影響されたことはその時に全部吸収して全部表現しちゃったんで。あんまり残ってない(笑)。つまり…はっぴいえんどの2枚目を作る時に1枚目とは違う…自分の歌い方っていうのかな、歌手としての自分が芽生えてきたんですよね。1枚目の頃は歌うことを知らなかったんで、無理やり歌ってて。それが自分の中の悩みになってた。で、ロック・バンドがたくさん出てきた時代から、大きく変わってきた時代が70年代の初頭なんですね。いわゆるシンガーソングライターって言葉がそこから生まれた。そういう人たちは個人的な声で個人的な歌詞で、非常にパーソナルに歌ってる。いわゆるロック・バンドとは違う表現の仕方がいっぱい出てきた。それらに僕は触発されたんです。こういうやり方があるんなら、自分にもできる、と思ってやり始めたんですね。だからバンド的なアプローチではなくて、シンガーソングライター的な曲を(はっぴいえんどの)2枚めで作ったんですね。

――あのころはいろいろな分岐点があって、たとえばレッド・ツェッペリンみたいな方向に行った人たちもいる。でもそういうロック・バンド的な方向に行かなかったのは、当然音楽の好みはあるにせよ、今話していただいたヴォーカル表現の問題とか、ご自分の音楽家としてのキャラクターなども関係しているということですか。

細野:うん、関係してますね。僕が高い声が出るようなタイプの人間だったら、ロック・バンドをずっとやってたかもしれないですけど。

――ロバート・プラントみたいなヴォーカルだったら…。

細野:(笑)ははははっ! ベースプレイヤーとしては、全然そっちのほうに行けるわけですよ。ただ、歌うとなると、すごいギャップがあるわけですね。高音が出ないっていうのは、かなり自分の生き方を制約してきたと思います。今の自分に育てたっていうのかな(笑)。低音のせいで。ベースも低音だし。低音人間なんですね(笑)。

――(笑)。ミュージシャンの方はご自分の音楽性を確立していくにあたって、ミュージシャンとしてのキャラクターとか、あるいは限界みたいなものが大きく関係している…。

細野:大きいですねえ。限界は大事ですね。

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