藤圭子から松山千春、半野田拓まで……豊田道倫が最近聴きこんでいる「名盤」6選
――前回のインタビューでは、新作『FUCKIN' GREAT VIEW』について“一瞬の夢としてのポップ”という視点から語ってもらいましたが、後編では最近聴きこんでいる6枚のアルバムを紹介してもらいます。まずは半野田拓の5枚組『5CDS』。円盤レーベルからのリリースです。
豊田:半野田くんは2005年の僕の『東京の恋人』に参加してもらった、当時まだ若手のサンプラーとギターを使うインプロヴァイザーで、音源も作っていました。それからあまり活動していなかった時期があって、去年突然これをリリースしました。音楽としては言葉にするのが難しいものです。「鬼才」というタイプですね。使っている機材はローテクな昔のサンプラーなんだけど、それで何でもやっちゃうという。
――缶バッチ10個付きというパッケージもすごいですけど、音の印象はPOPですよね。
豊田:見た目は金髪でヤンキーっぽい(笑)。アートっぽいところにいくわけでもなく、独自のスタンスのところが面白い。最近の大阪は言葉の鬼才はちょこちょこいるけど、音を追求している人はいそうであんまりいないので、数少ないそのタイプかな。
――次にBUN666の『GIRL! Last Demo Recordings』です。彼は2000年代前半に豊田さんのライブによくゲストで出ていて、私も何度か見ました。前作『m t v』収録の「ブルーチェアー」は彼のことを歌った曲ですね。
豊田:亡くなったのは一昨年の秋で、最近こういうパッケージでリリースされました。彼とはずっと一緒にやっていたんですが、4-5年前に「自分のソロのちゃんとしたものを作りたい」と電話があって、スタジオなどを紹介したけど、あまりうまくいかなかったようで。
――ギタリストとして彼をどのように評価していますか。
豊田:ものすごいものを持っていました。ダンスミュージックとしてのセンスも持っていたし、まだまだできることはたくさんあったと思う。制作前に彼は「マイルス・デイビスとジョン・リー・フッカーと『TAXI DRIVR』のサントラが混ざったようなアルバムを作りたい」と言ってて、それは、ほぼその通りにはなったし、それらを越えてると思う。
――この作品の楽しみ方とは。
豊田:単純に「こういう人もいた」ということです。言葉にはできないんだけれど…「オススメ」というわけではなくて、BUN666という人がいたことを知ってほしい。
――次は冬里工藤礼子名義の『みかん』。豊田さんとの共演経験もある工藤冬里さんと礼子さんによる2013年作品です。
豊田:工藤さんと一緒にライブをしたときに売っていたCDで、流通はしていないのかな? 去年けっこう影響を受けていて、物凄くラフにも聴こえる。これまたどう表現していいか難しいな(笑)。何というか、ヴェルヴェットってこういうものだったんじゃないか、という感じがあります。一番かっこいいロックという感じで音もすごくクールで、計算しているのかしていないのか、本人に訊いたら「マスタリングは素人がやった」って(笑)。でも、何か危険なオーラをビシビシ感じる。さっきのBUNさんと違うところは、彼がちゃんと現実にいることです。普段生活していて、こういう音を人が必要とするかは難しいんだけれど、家にひとつはあってほしい薬のような役割のもの。これを聴いたから自分の『FUCKIN GREAT VIEW』を作れたようなところがあって。音像の部分でちゃんとまとめなくても、歌としての思いが強くあって、ヴォーカルをきちんと録れば良いレコードになるんだ、と。