『オーメン:ザ・ファースト』は前日譚として出色の出来 描かれた恐怖の画期的な試みとは

『オーメン:ザ・ファースト』の画期的な試み

 有名ホラー映画の過去のエピソードを描く、いわゆる“前日譚(ぜんじつたん)”を題材にした後年の作品が、近年いろいろと公開されているが、そのなかでも、出色の出来といえる一作が登場した。『オーメン』(1976年)と、そのシリーズの前日譚を描く映画『オーメン:ザ・ファースト』である。

 ここでは、『オーメン』の要素をさまざまにとり入れながら、第1作で描かれた恐怖と、本作『オーメン:ザ・ファースト』で描かれた、全く性質の異なる恐怖を比べながら、本作の画期的な試みを明らかにしていきたい。

 第1作の『オーメン』は、『スーパーマン』(1978年)や『グーニーズ』(1985年)、『リーサル・ウェポン』シリーズなど、ヒット作を多く手がけることになるリチャード・ドナー監督にとって、大きなステップとなったホラー映画だ。映画音楽界の巨匠ジェリー・ゴールドスミスは、この作品の印象的な音楽によってアカデミー賞作曲賞を受賞している。

 アメリカを代表するダンディーな俳優グレゴリー・ペックが、そこで演じた主人公は、アメリカのエリート外交官ロバート。彼はローマ赴任中に自分の子どもが出産後に死亡したことを知り、そのことを妻に伝えられずに苦悩していると、ある神父から親のいない子どもを受け取るように促される。“ダミアン”と名付けられた、その子どもはロバートら夫妻のもとで成長し、5歳の誕生日を迎える。しかしそこから、奇怪でむごたらしい事件が次々と起こり始めることに。そんな事件の中心にいたダミアンは、おそろしい力を持った“悪魔の子ども”だったのである。

 『オーメン』が大勢の観客を惹きつけたのは、呪われた運命に導かれるように、人々がエクストリームな死を迎えていく、刺激的な表現だ。ゴシック小説風の雰囲気や、聖典を引用した仕掛け、抒情的かつ端正な絵作りがそれらの背景にあるというのは、『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)や、『エクソシスト』(1973年)、『赤い影』(1973年)を彷彿とさせる。残虐な描写の数々が、相反する格調高い美学でコーティングされることで、ホラー、スリラー映画ファンだけでなく、より広い観客に届く内容ともなった。

 対して、本作『オーメン:ザ・ファースト』が描くのは、ダミアンとなって育っていく、“悪魔の子”が誕生するまでの経緯だ。『オーメン』では、ローマで悪魔の子の母親が出産とともに死んだという話や、「山犬」というワードが出てきたものの、その詳細が語られることはなかった。本作では、これらが何だったのかが、おぞましい描写とともに明らかになっていくという趣向が用意される。

 ドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のミアセラ・バラシオン役で広く知られることになったネル・タイガー・フリーが演じる、本作の主人公は、修道女見習いとしてアメリカからローマへとやってきたマーガレット。彼女は孤児院で少女たちを教育する仕事にあたるが、そこで出会った、“問題児”とされているカルリータ(ニコール・ソラス)と交流したことをきっかけに、修道院やカトリック教会に隠された秘密と、驚愕の事実への扉を開けることとなる。

 物語のアクセントとなるのは、やはりむごたらしい死の数々だ。それらは、『オーメン』第1作の凄惨な事件の数々に対応するように配置され、いささか不謹慎にも思える“死因のアレンジ”が施されている。この涜神的な悪趣味さこそが、『オーメン』の醍醐味といえるはずで、本作を鑑賞中に、“いま間違いなく『オーメン』に連なる作品を観ている”という実感が込み上げてくるのが、嬉しい部分である。

 何層にも包まれた物語の仕掛けの数々は、本作を楽しむ上で重要な点だと考えられるので、ここでは展開そのものを直接的に追求することはしない。代わりにここからは、その背景にあるものが何なのかを意識しながら、実際にどんなテーマが描かれているのかを突っ込んで考えてみたい。

 得体の知れない子どもが、呪われた力で家庭を崩壊させていくという、『オーメン』第1作が表現した恐怖とは、まず第一に子どものなかに存在する“邪悪の芽”のようなものだと考えられる。『悪い種子』(1956年)や『未知空間の恐怖/光る眼』(1960年)が描いたように、大人の脅威となる子どもの姿は、現実の子どもたちが時折見せることがあるネガティブな部分に対する潜在的な恐怖を喚起するものがあるのではないか。

 若いうちに犯罪に手を出したり凶行に及んでしまう人物の背景には、家庭環境の劣悪さがあることが指摘されることが多いが、なかには問題があるとは思えないような育ち方をしてすら、悪に手を染める者も少なくない。そういった事実に直面したとき、人間には本来、隠された悪意が存在するのではないかという疑惑が持ち上がる。『オーメン』は、まさにそんな人間の見方を恐怖シーンへと変換しているように感じられる。

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