『君たちはどう生きるか』北米No.1発進 『ゴジラ-1.0』とともに日本映画旋風もたらす

『君たちはどう生きるか』北米No.1発進

 「いま、ハリウッドで日本映画が熱い」。思わずそんなふうに言ってしまいたくもなるほど、北米で日本映画の快進撃が続いている。前週の『ゴジラ-1.0』の大ヒットにつづき、12月8日には宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』が北米公開を迎え、週末ランキングのNo.1に輝いた。オリジナルのアニメーション作品としては史上初の快挙だ。

 12月8日~10日の3日間で、『君たちはどう生きるか』は興行収入1280万ドルを記録。IMAXやプレミアムラージフォーマット上映も実施され、北米におけるスタジオジブリ作品、宮﨑駿作品の歴代オープニング記録を塗り替えた。宮﨑作品としては、前作『風立ちぬ』(2013年)の北米累計興収520万ドルをすでに上回っている。

 北米の週末ランキングにおいて、外国作品が首位となったのも2023年で初めてのことだ。前回は2022年8月19日~21日の『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』で、初動興収は驚きの2112万ドルだった(同作の米国配給は『君たちはどう生きるか』のGKIDSではなく、ソニー傘下のクランチロールが担当した)。

『君たちはどう生きるか』©2023 Studio Ghibli

 『君たちはどう生きるか』の首位発進の背景には、やはりスタジオジブリと宮﨑駿のブランドに対する信頼がある。日本国内と同じく、10年ぶりとなる宮﨑の監督復帰作として歓迎されていることは明らかで、Rotten Tomatoesでは批評家スコア96%、観客スコア91%と大きな支持を受けた。出口調査に基づくCinemaScoreでも「A-」評価を獲得している。

 本作は字幕版と英語吹替版が上映されており、吹替版にはクリスチャン・ベール、ロバート・パティンソン、ウィレム・デフォー、フローレンス・ピュー、福原かれん、ジェンマ・チャン、マーク・ハミル、デイヴ・バウティスタという豪華スターが声優として参加。彼らが大々的にプロモーションを行うことはなかったものの、その顔ぶれが興行的成功に一役買った側面はあるだろう。

 ちなみに『君たちはどう生きるか』は、観客の約80%が18歳~34歳と、『ゴジラ-1.0』と同じく若年層の動員に成功した。いくらストリーミングサービスが普及し、娯楽の選択肢が増えたとはいえ、映画のヒットにはZ世代が欠かせないのである。

『ゴジラ-1.0』©2023 TOHO CO.,LTD.

 また、公開2週目の『ゴジラ-1.0』は前週に続いて第3位をキープ。公開館を2450館に増やし、3日間の興行収入は834万ドルと、前週比わずか-26.9%という優れた推移となった。北米累計興収は2534万ドルで、すでに大々的に報じられているとおり、『子猫物語』(1986年)を抜いて日本映画の実写作品として歴代No.1の興行成績となっている。

 当初、『ゴジラ-1.0』は北米で1週かぎりの上映ともいわれていたが、東宝は「需要のあるかぎり上映を継続する」と北米の『ゴジラ』公式SNSで告知している。外国語の実写作品として、北米興収の歴代記録を保持するのはチャン・イーモウ監督『HERO』(2002年)の5371万ドル。予想以上のヒットを受けて、この数字にどこまで迫れるか、果たして追い抜くことはできるのか。

『ゴジラ-1.0』©2023 TOHO CO.,LTD.

 北米の映画ランキングでトップ3のうち2本が日本映画という快挙は、もちろん単なる偶然ではない。宮﨑駿とゴジラという2大ブランドの力はもちろん、現地の映画スタジオがクリスマスシーズンに向けて新作を準備している(したがって大作映画の公開が比較的少ない)12月上旬に劇場公開を決めたことも大きかった。もちろん、ストライキのために新作映画が減っていることも背景のひとつだ。

 それゆえ12月8日~10日の北米映画市場は、全体の興行収入が7280万ドルとやや少なめだ。とはいえ2022年の12月2週目と比較すると93%増だから、コロナ禍からの回復は着実に進んでいる。そんな中で『君たちはどう生きるか』と『ゴジラ-1.0』はあわせて2100万ドル以上を稼ぎ出して全体の3割近くを占め、北米市場に大きな貢献を示した。

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