『大奥』仲間由紀恵の一橋治済は原作に負けず劣らずの怪物に 恐怖の微笑みを体得するまで

仲間由紀恵が恐怖の微笑みを体得するまで

「あの女はの、人の皮を被った化け物じゃ」

 NHKドラマ10『大奥』Season2「医療編」がクライマックスを迎える。「医療編」で多くの人を震え上がらせているのが、一橋治済を演じる仲間由紀恵だ。老中・松平定信(安達祐実)に「化け物」と言わしめるほどの人物・治済を、サイコパスかつモンスターにしているのは、間違いなく仲間の演技力と存在感である。

 治済は御三卿・一橋家の当主であり、徳川吉宗の孫にあたる。息子・家斉(中村蒼)を将軍にするため策謀の限りを尽くし、将軍・徳川家治(高田夏帆)を毒殺、田沼意次(松下奈緒)や定信らの政敵たちを追放して「江戸城の真の主」に君臨する。

 人の心を操り、対立させ、滅ぼしてしまうのは朝飯前。権力欲を満たすため、邪魔者を殺すだけでは飽き足らず、自分の幼い孫たちまで手にかけていく。それもうっすら微笑みながら。治済には何の志もなく、ただ退屈しのぎに権力を求め、人を殺し、苦しむところを眺めては愉悦に浸っていたのだ。『大奥』最大の悪役だと言っていいだろう。

 よしながふみの原作で描かれていた治済は、いつもどこか虚ろな表情を浮かべていた。平然と嘘をつき、他人を陥れ、権力を手にしていくが、それでも彼女の退屈を紛らわせることはできなかったようだ。母親に毒を盛った頃から世の中のすべてに倦んでいたのではないだろうか。

 一方、仲間由紀恵が演じる治済は、いつも悠然と微笑んでいる。立ち振る舞いは優美で、貫禄が漂う。安達祐実が演じる定信の生真面目さ、神経質さとは対照的だ。だが、おおらかさ、人の良さは微塵も感じさせない。この加減が絶妙である。

 治済の恐ろしさが爆発したのが第14話だった。「男が政を語るのではないわ!」と家斉を一喝する場面や、幼い孫の敬之助(北尾いくと)の喉元を足で踏みつける場面の恐ろしさはとてもわかりやすい。本当に治済の恐ろしさが表れていたのは、これまで毒殺の手引きなど汚れ仕事を一手に引き受けてきた武女(佐藤江梨子)とのやりとりの場面だ。

 まず、敵対する定信について「もう徳川にはいらぬ人物かもしれんのう」と武女に忖度させる。殺害を固辞されると、まるで駄々をこねる子をなだめるかのように優しく武女の過去の功績を褒め称えるが、すぐさま「だが! そこまで辞めたいと言うのなら致し方あるまい」と冷酷に告げて微笑みを浮かべる。描かれてはいないが、この後、毒入りの茶を飲ませて殺害するのだ。不要な駒を切り捨てるまでの決断が異様に早い。そして、毒入りの茶を飲ませることを明らかに楽しんでいる。

 仲間が演じる治済の微笑みには二つの種類がある。策略を隠すための微笑みと、心から愉悦に浸っているときの微笑みだ。家斉の回想の中で、毒入りの茶をあおり、血を吐いて苦しむ武女を見つめながら浮かべる微笑みは後者である。二度目に毒入りの茶を勧めようとしているときも微笑みを浮かべている。きっと武女が悶え苦しんでいた過去を思い出していたのだろう。またあれが見られる! 嬉しい! そんな微笑みだ。

 回想の中で毒入りの茶を「飲め」と告げるとき、仲間の目が緑色に光って、まるで物の怪のように見える。これは演出の技である。原作の素晴らしさはもちろんのこと、仲間の演技と演出が組み合わさって、モンスター・治済が完成したのだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる