若者の新しい感覚を反映? 『葬送のフリーレン』『いちばんすきな花』に共通する“声”

『フリーレン』『いちばんすきな花』の共通点

 『葬送のフリーレン』の雑誌連載が始まったのは2020年4月28日。新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるい始めた時期だった。 

 あれから3年近く経つが、コロナ禍が変えたことの中で、もっとも大きかったのは、マスク着用に伴う日常会話の変化だったのではないかと思う。

 今、街中を歩いていると、マスクをつけていない人が増えて、コロナ禍以前の日常に少しずつ戻りつつあるように見えるが、大声で喋っている人は少なく、声を出すという行為そのものに対する忌避感のようなものを感じる機会が多い。

 それは対面の会話にも言えることだ。Zoomなどのビデオ通話でのやりとりが増えたこともあってか、一方的に話すのはNGで、相手の意見を聞いて冷静に対話すべきだという風潮は年々強まっている。

『いちばんすきな花』“席”が示すそれぞれの居場所 “4人組”として繋がっていくゆくえたち

教室の席。結婚式の席。ダイニングテーブルの席。それは単なる椅子かもしれない。だが、「ここだよ」と示される席があるというのは、「あ…

 このようなコミュニケーションに対する意識の変化は、現在放送されているテレビドラマ『いちばんすきな花』(フジテレビ系)にも強く表れている。

 本作は、生方美久が脚本を担当している4人の男女の物語だが、『葬送のフリーレン』と同じく会話のトーンが抑制されており、相手の意見を優しく受けとめて、落ち着いて対話を進めていこうとする登場人物の振る舞いが強く印象に残る。

 生方は2021年にフジテレビヤングシナリオ大賞を30歳で受賞した新人脚本家で、聴覚障がい者の男性と健常者の女性の恋愛を描いた恋愛ドラマ『silent』(フジテレビ系)が昨年大ヒットした。『silent』では、手話やスマホのミュニケーションアプリを用いて聴覚障がい者と健常者が対話する場面を描くことで、音のない世界の豊かさを紡ぎ出していたが、あの静かなトーンがコロナ禍の気分とマッチしていたからこそ、本作は若い世代から絶大な支持を獲得したのだろう。

 生方が描こうとしている静かな世界の心地良さは、そのまま『葬送のフリーレン』にも当てはまる。おそらく両作の根底にあるのは、コロナ禍に芽生えた若者たちの新しい感覚で、それがもっとも強く表れているのが、あの声のトーンなのだ。

■放送情報
『葬送のフリーレン』
日本テレビ系「FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」枠にて、毎週金曜23:00〜放送
キャスト:種﨑敦美、市ノ瀬加那、小林千晃、岡本信彦、東地宏樹、上田燿司
原作:山田鐘人、アベツカサ『葬送のフリーレン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:斎藤圭一郎
シリーズ構成:鈴木智尋
キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子
コンセプトアート:吉岡誠子
魔物デザイン:原科大樹
アクションディレクター:岩澤亨
美術監督:高木佐和子
美術設定:杉山晋史
色彩設計:大野春恵
3DCGディレクター:廣住茂徳
撮影監督:伏原あかね
編集:木村佳史子
音響監督:はたしょう二
音楽:Evan Call
アニメーション制作:マッドハウス
OPテーマ:YOASOBI「勇者」
EDテーマ:milet「Anytime Anywhere」
©山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
公式サイト:https://frieren-anime.jp
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/Anime_Frieren

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