若者の新しい感覚を反映? 『葬送のフリーレン』『いちばんすきな花』に共通する“声”

『フリーレン』『いちばんすきな花』の共通点

 アニメ『葬送のフリーレン』が話題となっている。

 本作は、『週刊少年サンデー』(小学館)で山田鐘人(原作)とアベツカサ(作画)が連載している人気ファンタジー漫画をアニメ化したものだ。

 新設されたアニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT」(日本テレビ系)で放送されているが、『金曜ロードショー』で第1〜4話を一挙放送するという大胆なアプローチによって一気に注目を集めることとなった。

 物語は勇者一行が魔王を倒し王都に凱旋する場面から始まる。人間の勇者ヒンメルと僧侶ハイター、ドワーフの戦士アイゼンと共に魔王を倒したエルフの魔法使いフリーレンは、勇者一行と別れた後も1人で旅を続けていた。

葬送のフリーレン

 1000年以上の時間を生きているフリーレンにとって、勇者一行との10年にわたる冒険は、ほんの一瞬の出来事に過ぎなかった。

 それから50年が経ち、ヒンメルの葬儀に参列したフリーレンは、自分がヒンメルについて何も知らなかったことにショックを受けて涙を流す。そして、もっと人間のことを知りたいと思い新たな旅に出る。

 それからさらに月日は流れ、現在のフリーレンは、ハイターの元で魔法の修行を積んだ戦災孤児のフェルンを弟子に取り、アイゼンの弟子だった斧使いの少年・シュタルクを仲間にして冒険を続けている。

 物語の冒頭には「勇者ヒンメルの死から〜年後」という表記が登場し、不老長寿のエルフと短命の人間の落差が描かれ、旅先で出会った人々とフリーレンが勇者ヒンメルの思い出を通して心を通わせ、人間の良さを知っていく過程が淡々と描かれる。

 現代では描くことが難しい血湧き肉躍る壮大な冒険を、真正面から描けることがファンタジーの強みだ。『葬送のフリーレン』も設定だけ抜き出せば、中世ヨーロッパを思わせる世界を舞台に魔法やモンスターが登場するファンタジーの王道だが、物語の描き方は非常にクールで落ち着いている。

 それはフリーレンの表情や喋り方に強く表れている。原作漫画を読んで最初に印象に残るのは作品全体を覆う静けさだ。劇中の会話を細かく読んでみると、会話の語尾に「!」が少なく、作り手が意識的に会話のトーンを抑えて描いていることがわかる。

 アニメの声優の演技も原作漫画の声のトーンをしっかりと踏襲しており、声や劇伴だけを聞いていると、他のアニメとは大きく違うことに気付く。

 例えるならば、他のアニメの声のトーンが10だとすると『葬送のフリーレン』の声は5ぐらいのトーンで耳に入ってくる。同時に相手の話を聞かずに感情を露わにして自分の意見を一方的に主張するといった「気持ちと勢いだけで相手を説得しようとする場面」も描かない。

 本音をむきだしにして感情をぶつけ合うことによって友情が芽生えるといった少年漫画的なコミュニケーションに慣れていると『葬送のフリーレン』の理知的すぎるやりとりには戸惑うところがあるが、おそらくこれは古い時代の感覚で、この声のトーンこそが今の時代の気分なのだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる