『葬送のフリーレン』の『金ロー』放送は大正解! 原作を昇華させた制作陣の手腕

『葬送のフリーレン』原作を昇華させた制作陣

 ここ数年、深夜アニメの放送第1回を拡大枠で放送するケースが増えてきた。細かく言及すれば2010年代から第1話を1時間枠(実質的に2話分を連続)で放送したアニメが散発的にあったのだが、ここ2~3年は特に増えてきている。そんな中、全国ネットの日本テレビで、しかもゴールデンタイムの『金曜ロードショー』2時間枠で放送されたアニメが『葬送のフリーレン』である。

 『葬送のフリーレン』は『週刊少年サンデー』(小学館)で2020年より連載開始され、そこから僅か3年の間に数々の漫画賞を受賞したファンタジー作品だ。肝心の漫画の内容は、魔王を倒した勇者パーティー一行の“その後”を描いたもので、長寿族のエルフである主人公フリーレンが、自分よりも早く年老いてしまう仲間の死を看取り、寿命の短い人間の心を知るために旅をするロードムービーの味わいを持つ。

 時折魔物との戦いはあるものの、物語の主軸はフリーレンの旅路や弟子となるキャラクターたちとの出会い、そして旅先で出会う人々とのドラマなので、例えば『少年ジャンプ』系漫画のような派手で熱い敵とのバトルが売り物の漫画ではない。そうした静かなトーンの漫画原作をアニメ化するにあたり、2時間を使って第4話分まで一気に進めてしまったのは、なかなか懸命なやり方だ。『金曜ロードショー』での放送枠の中だけで原作コミックスの第1巻を全部消化してしまった。

 60分以上の拡大枠で第1話を放送するアニメの利点として、第1回目にして主人公の目的が明確化される、どんな登場人物が出てくるのかだいたい分かる、世界観が掴みやすいなどがある。まだ本筋に入ってもいないのに「つまらなそうだし第2話はもう観なくていいな」といった、“1話切り”と言われる現象が起きにくい。

 目先の派手さがセールスポイントではない、ゆったりとした本作のようなアニメには特に有効で、旅の仲間2人との死別、弟子となる少女フェルンとの出会い、そして2人目の弟子が待つ地への旅立ちまでを、4話分の放送で一気に見せている。“1話切り”されやすい理由のひとつ、作画が良くなさそう……という部分に関しても、細田守監督や今敏監督の劇場用作品を手がけてきたマッドハウスが制作しているだけあって、キャラクターも美術も素晴らしい出来栄え。感情の起伏が少なそうに見えるフリーレンが、2時間の放送中に落涙を2度見せ、淡々とした性格の彼女が心優しい少女であることを視聴者に印象付けるのにも成功している。そしてこれは原作の持ち味でもあるのだが、フリーレンとフェルンの会話の間、表情などにそこはかとないユーモアを交え、ほんのりと笑える要素も入っている。

 『葬送のフリーレン』は日本テレビが新設した深夜アニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT(通称・フラアニ)」の第1回作品としてプロモーションにも力が注がれており、放送開始前からの大々的な宣伝もあって、「何か凄いアニメが始まるのではないか?」という原作未読組の期待も大きかった。結果的に日本のみならず海外のアニメファンにも喝采をもって迎えられ、まずまず好調な滑り出しと言えよう。

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