『警視庁アウトサイダー』膨大な小ネタが生むグルーヴ感 長濱ねる主演のスピンオフも必見

『警視庁アウトサイダー』の豊かな世界観

 7月28日、『警視庁アウトサイダー』(テレビ朝日系)のBlu-ray&DVD BOXが発売される。

 2023年1〜3月にかけて放送された本作は、元マル暴の刑事・架川英児(西島秀俊)と、エース刑事・蓮見光輔(濱田 岳)、新米刑事・水木直央(上白石萌歌)という3人の刑事が様々な難事件に挑んでいく刑事ドラマだ。

 原作は加藤実秋の同名小説(角川文庫)で、脚本は映画『東京リベンジャーズ』など話題作を多数手がける髙橋泉が担当。そして、『民王』(テレビ朝日)などを世に送り出したヒットメーカー・木村ひさしがチーフ演出を務めている。

 『相棒』や『科捜研の女』といった人気刑事ドラマシリーズがテレビ朝日では多数放送されているが、テレ朝が得意とするウェルメイドな刑事ドラマを期待して本作を観た視聴者は、かなり戸惑ったのではないかと思う。

 シリアスな刑事ドラマだと思って本作を観始めると、架川の携帯電話の着メロが『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日系)のメインテーマだったり、缶コーヒーの名前が「しげるのブラックコーヒー」で歌手の松崎しげるのラベルが貼られていたりして、水木直央の口癖ではないが、油断していると「えっ?」と思う描写が次々と登場するため目が離せなくなる。

 このようなくすぐりは“小ネタ”と呼ばれており、架川の着メロが「はぐれ刑事純情派メインテーマ」だった理由は、架川を演じる西島秀俊の俳優デビュー作が『はぐれ刑事純情派V』(テレビ朝日系)の新人刑事役だったからで、その知識を踏まえると、架川が藤田まことが演じた安浦刑事を崇拝している理由も理解できる。

 こういった小ネタは意味がわからなくても、ドラマを楽しむ上での支障はない。ただ本作はその小ネタの量があまりにも膨大なので、ちょっとしたやりとりでも「えっ?」と思い、気になってしまう。

 普通のドラマならノイズとなるため省略されてしまうような「えっ?」と思うやりとりが続く会話や、物語と無関係に思える「えっ?」と思われる描写を、本作はあえて延々と繰り返すのだが、そのことによって生まれる独自のグルーヴ感こそが、木村ひさし作品の最大の魅力だと言えるだろう。

 木村ひさしは、『ケイゾク』(TBS系)や『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)といったTVドラマのチーフ演出として知られる堤幸彦の助監督を務め、『トリック』(テレビ朝日系)シリーズの演出として注目されるようになった。

 『トリック』のスピンオフドラマ『警部補 矢部謙三』(テレビ朝日系)でチーフ演出を務めて以降は、『ATARU』(TBS系)や『99.9-刑事専門弁護士-』(TBS系)といった作品のチーフ演出を次々と担当し、ミステリードラマの名手として広く知られるようになった。

 木村ひさしの作品は、実験的な映像でシリアスな物語を展開すると同時に、マニアックな小ネタを散りばめることで注目を集め、プロレス要素も多いのが特徴で、本作も第1話からリング上で逮捕劇が行われる。ミステリーと小ネタを入口に、警察や政治家の背後で蠢く権力の闇に切り込んでいく『警視庁アウトサイダー』は、今の時代ならではの「新感覚の刑事ドラマ」である。

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