『らんまん』を彩る食べ物たち 牛鍋、山椒餅、揚げ芋など印象的な“消えもの”を振り返る

牛鍋、山椒餅など『らんまん』を彩る食べ物

 万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)の子供がついに誕生。「この子の人生にありとあらゆる草花が、咲き誇るように」という願いから園子と名づけられた。

 近年の朝ドラの中でも、ヒロインの妊娠から出産までの期間をかなり丁寧に描き出した『らんまん』(NHK総合)。特に印象的だったのが、つわりが重い寿恵子のために藤丸(前原瑞樹)が揚げ芋を作る場面だ。競争社会に馴染めない藤丸の優しさが際立つと同時に、「つわりの時にはなぜかフライドポテトが食べたくなる」という現代にも通ずる“妊娠あるある”を盛り込んだこのエピソードは大きな反響を呼んだ。

(左から)槙野寿恵子役・浜辺美波、槙野万太郎役・神木隆之介、藤丸次郎役・前原瑞樹

 揚げ芋のようにドラマの撮影で小道具として使用される飲食物は、業界内で「消えもの」と呼ばれる。これは一度使ったら消えてしまう“消耗品”であるため。とはいえ、ただの消耗品ではない。現代劇ではない作品においては、主人公が生きた時代と場所の生活様式や食文化を観る人にリアリティをもって伝える重要なアイテムとなる。

 特にNHK朝ドラは主人公の出生地が注目される傾向にあり、例えば岡山が一つの舞台になった『カムカムエヴリバディ』では“ままかり”と呼ばれる魚の酢漬けや、『ちむどんどん』では沖縄の郷土料理である“ゆし豆腐”や“イカスミジューシー”など、地元の人しか知らないような食材や料理が登場する。それによって、その地域に関する理解が深まるのも一つの醍醐味だ。

 本作では、第1話から万太郎の好物として“山椒餅”が登場。山椒餅とは、山椒の粉を練りこんだお餅で、万太郎の地元である高知県佐川にて古くから親しまれていたという。文化継承のために地元の人たちが山椒餅づくりに励んでいたが、メンバーの高齢化で3年前に生産を中止。しかしながら、このドラマが始まるということで生産を再開し、万太郎のモデルになった牧野富太郎氏の生誕祭で販売されたそうだ(※1)。朝ドラは舞台となった地域の食文化を改めて見直すきっかけにもなっている。

 他にも、万太郎が生まれ育った酒蔵・峰屋では、半年間酒造りに励んだ蔵人たちを労う甑倒しの日や、万太郎と寿恵子の結婚式には宴会場に多数の大皿料理が並んだ。高知では“皿鉢料理”と呼ばれ、様々な料理が豪快に盛り付けられたお皿をみんなで囲み、それぞれ好きなものを取り分けて食べる文化が存在している。高知といえば、名産のカツオ。他にも様々な魚の新鮮な刺身が大皿に並んでおり、広大な太平洋に面し、海の幸に恵まれた土地を十分に感じることができた。

 7月24日放送の第81話で万太郎と、植物学教室の波多野(前原滉)と藤丸が囲んだ牛鍋はこのドラマの至る場面で登場している。最初に出てきたのは第15話。博覧会に参加するため、上京した万太郎と竹雄(志尊淳)が入ったのが牛鍋屋だった。牛鍋は西洋文化の流入で食肉が一般的になりつつあった明治時代に広まりを見せる文明開化の象徴だ。この時、峰屋の当主である万太郎が植物に夢中になるあまり、竹雄との間には気まずい雰囲気が漂っていたのだが、初めて食べた牛肉の美味しさが2人の空気を一変。万太郎も竹雄もいろんなことをひと時忘れて、牛鍋に夢中になった。

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