『らんまん』万太郎は朝ドラ屈指の“名付け”人 誕生した「園子」に込められた思い
ほぼ全ての朝ドラ作品で描かれるヒロインの出産、そして名付けのシーン。例えば、『舞いあがれ!』(NHK総合)で舞(福原遥)が産んだ子に、貴司(赤楚衛二)は「何があっても負けず、一歩一歩前へ進んでほしい」という願いを込め、「歩」と名付けていた。
7月21日放送の『らんまん』(NHK総合)第80話はまさにその出産と名付けの回。筆者はこの回を観てハッとした。なぜならば、新種の植物を見つけ「名付け親になりたい」と寿恵子(浜辺美波)や今は亡きタキ(松坂慶子)に公言してきた万太郎(神木隆之介)にとって、この子供の命名も当然重要な出来事であり、朝ドラ史においてもここまで「名付ける」ということにこだわりを持った主人公は、後にも先にもいなかったのではないだろうか。
第80話は、藤丸(前原瑞樹)を連れ、植物採集に出かけている万太郎と十徳長屋でお腹の子と共に夫の帰りを待つ寿恵子との手紙でのやり取りが軸となって進んでいく。季節の移ろいを伝えながら、同時に強く感じられるのは万太郎が植物と同じくらい寿恵子との間に生まれてくる子に出会えることを心待ちにしているということだ。
絶えず送られてくる名付けの手紙には、「スミレ」「ナズナ」「ユキ」「イカリ」「シノブ」「スギナ」「リンドウ」「レンゲ」「ムラサキ」「キキョウ」「ハコベ」……といった多くの候補名が記されていた。最初に思いついたという「スミレ」ならば、ひなたが大好きなみんなに愛される子になる、という願いが詰まっており、その一つひとつの案からは生まれてくる子と寿恵子を遠く離れた地からでも、ひと時も忘れることなく思っているということが分かる。そのことが寿恵子にとっても「よし! やるか!」と生きる活力を与えてくれていた。
質屋店主の中尾(小倉久寛)、イチ(鶴田真由)と佳代(田村芽実)、小春(山本花帆)といった長屋の面々を中心としたたくさんの人に支えられながら、寿恵子はついに出産の時を迎える(「許すまじ! 槙野万太郎ぅ!」と相変わらず佳代はいいキャラをしている)。画面は産気づく寿恵子を映しながら、そこにモノローグとして万太郎の手紙の文面が載る。万太郎の思いが寿恵子に寄り添いながら、そこに物理的にも万太郎が旅先から到着。生まれたての赤ん坊を抱いて笑みを浮かべる寿恵子に、万太郎も安堵の表情だ。