『らんまん』万太郎と田邊の“愛情の向け方”は同じ? 植物に対するスタンスの明確な違い
万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)の間に長女・園子が誕生した。『らんまん』(NHK総合)第17週が幕を開け、長屋での3人暮らしが始まる。
生まれたばかりの愛くるしい娘の姿にもうメロメロの万太郎。こういう時、父親は子どもをひたすら眺めたり抱っこしたりするのが一般的だろう。一方、万太郎はというと、虫眼鏡で園子の爪の形やまつ毛の一本一歩を観察し、スケッチブックに描き写す。目の前にある対象をもう、これ以上見るところがないというほどに見尽くし、その一つひとつの有り様を慈しむ。それが万太郎の愛情表現であり、幼い頃から自然と続けているライフワークだ。
その長年の勘と経験があるから、万太郎は藤丸(前原瑞樹)との採集旅行でも新たに木にはびこった動物と植物の両方の性質を持つ不思議な菌を見つけた。藤丸は教授との採集旅行とはまるで違ったと、波多野(前原滉)に当時の様子を興奮気味に語って聞かせる。おそらく、田邊教授(要潤)は花が咲いたトガクシソウを見つけるのに必死だったのだろう。だけど、彼が見ているのは植物ではなく、その先にある研究者としての実績とも言える。万太郎は最初から、そこを見ていない。いつだって動機は、「まだ誰にも見つけてもらえていない草花を自分が見つけて、名前を与えてあげたい」というところにある。
「万さんは、ただ愛したいだけなんだ」
学者同士の競争や手柄の奪い合いにうんざりしていた藤丸も、万太郎との採集旅行でようやく自分が研究する意味を見つけたようだ。大学に復帰し、高知から持ち帰った“変形菌”を研究すると決めた藤丸。一方、画工の野宮(亀田佳明)と植物研究のためにタッグを組むことにした波多野は改めて万太郎にお礼を言う。万太郎と出会ったおかげで植物学が楽しくなった、と。同じ植物学教室で切磋琢磨し、すっかり友情が深まった3人。だが、忘れてはならないのは、それもこれも田邊教授が万太郎の出入りを認めてくれたおかげだということ。学歴のない万太郎を教授だけが歓迎して、受け入れてくれた。今はその教授から目の敵にされている万太郎だが、それはそれとして「一生かかったち返せん恩がある」と感謝の気持ちを忘れていないところにまた彼の博愛精神が現れている。
かたや、田邊教授は緻密な植物画を描き上げ、一冊の図鑑を完成させた万太郎の熱意や才能に嫉妬を隠せないでいる。現在は初代文部大臣の森有礼(橋本さとし)に依頼され、ローマ字の普及に努める田邊教授。「旦那様ほどご立派なお方はいらっしゃいません。聡子は旦那様にお仕えできて幸せにございます」と妻の聡子(中田青渚)に言われて気を良くするも、万太郎の名前が出た瞬間に顔色を変える。そんな田邊教授だが、聡子といる時は万太郎と同じだ。ブランデーを飲み、思わず顔をしかめる聡子に彼は愛情のある目を向ける。肩の力を抜いて、目の前の対象を見つめ、慈しむ瞬間は田邊教授にも確かにあるのだ。植物に対しても同じ姿勢で向き合えることができたら……。そんな希望を打ち砕くように、万太郎の図鑑を眺める教授のバックで雷鳴が轟いた。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK