『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3』彼らの旅路を音楽とともに振り返る

『GotG3』までの旅路を音楽と振り返る

ピーター・クイルと「O-o-h Child」(Five Stairsteps)

The Five Stairsteps - O-o-h Child (Audio)

 『アベンジャーズ/エンドゲーム』の「トラウマ」をテーマにしたフェーズ4に引き続き、『GotG3』はピーターのトラウマに焦点を当てる。『ガーディアンズ』3部作の主人公である彼は、第1作で母を、第2作で父を、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で愛する女性を亡くす。そんな彼の旅路が表すものは、まさしく“喪失”と“再生”だ。地球という故郷やそこでの青春時代、家族を失った彼はその後、ガーディアンズとの出会いを通して再生していく。最期に手を握ってやれなかった母の代わりにガモーラの手を握ったことで力が漲ったり、育ての親であるヨンドゥこそ探し続けていた本当の父親だったことに気づいたり、これまでの物語はやはりピーターのパーソナルな問題が物語の主軸になることが多かった。しかし、面白いのは、結局ピーターの抱える問題がガーディアンズそれぞれの抱える問題や悩みと呼応していることである。そして、『GotG3』がピーターにとって母でも父でもなく、“自己”についての映画だったように、自分自身の過去を振り返るロケットや、自分の気持ちをさらけ出せるようになったネビュラ、誰かにとっての過去ではなく自分の道を歩み始めたガモーラ、破壊者ではなく父である本当の自分を思い出せたドラックス、アイデンティティ探求の旅に出たマンティスといった具合に、みんながやはり今作で同じテーマに向き合っているのだ。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』©︎Marvel Studios 2023

 自分が怒りに身を任せてしまったせいでサノスからガントレットを奪い損ねた。最愛の女性も失ってしまった。そのトラウマに苛まれ、酒に溺れて簡単に立ち直れない本作のピーターは痛々しい。誰一人としてもう仲間を死なせることに耐えられないし、自分の人生がここから明るいものになるとも思えない。そんな彼の姿を見て思い出すのは、第1作のラストでロナンに対してダンスバトルを持ちかけた時、歌っていたFive Stairstepsの「O-o-h Child」の歌詞だ。

<大丈夫、そのうち楽になるよ。大丈夫、きっと未来は明るくなる。いつの日にか、僕らで力を合わせて良い方向に変えて行こう。いつの日にか悩みが消えてなくなったら、美しい太陽の光を浴びて歩こう。いつの日にか世界が輝いて見える時が来るから>

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』©Marvel Studios 2023

 その歌詞は、単に敵・ロナンを撃ち負かしたテーマソングではなく、それから失い傷つき続けたピーター自身の再生の応援歌として心に響く。ガモーラとちゃんとしたお別れができなかった彼は、本作で違うガモーラを通して自分の気持ちに整理をつける。そしてようやくピーターは旅を終え、自分が最初から求めていた自分の家族に会いに、帰路に着いた。

 カセットテープを聞いていた幼い自分を病室に呼び、母からのプレゼントをバックパックにしまってくれたおじいちゃん。何年もの間、帰りを信じて待っていた彼の元を訪れ、受け入れられたピーターはようやく“ホーム(故郷)”に帰ることができたのだ。エンドクレジットシーンは、そんな彼と祖父がシリアルを食べながら他愛もない会話をしている様子だけが映される。なんでもないシーンだけど、この“なんでもない光景”はピーターにとって初めてのものだった。

シリーズを支えたグルート、そして新メンバーのアダム・ウォーロック

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』ディズニープラスにて配信中 ©︎Marvel Studios 2023

 今まであえて触れてこなかったロケットの相棒グルートは、他の仲間と比べると自身の物語があまり描かれていないし、最初から何かを失ってここまで来た、というキャラでもなかった。しかし、そんな彼だからこそ第1作で、自分の肉体を失うことで仲間を助けようとする。ベイビーグルートが第2作の冒頭でElectric Light Orchestraの「Mr. Blue Sky」に身を任せて踊る姿は今後も語り継がれていく名シーンだが、グルートという存在そのものがガーディアンズにとって(そして観客の私たちにとって)の“青空”だったと言えるだろう。赤ん坊から幼少期、思春期と描かれてきた彼の身体的な成長は、ガーディアンズの心の成長と呼応する。だからこそ『GotG3』のクレジットシーンで、第1作の時よりも太くて立派な幹になっていたことが嬉しい。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』©Marvel Studios 2023

 そのラストシーンで肩を並べていたのが、なんと新メンバーとして加入したアダム・ウォーロック(ウィル・ポールター)である。彼は興味深いことに、ガーディアンズのメンバーが本来3部作を通して経験してきたことを全て『GotG3』の1作で体験しているキャラクターなのだ。母親の死、自己の追求もそうだが、何より善行をすることで生まれ変わった点が重要である。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』©Marvel Studios 2023

 ロケットを瀕死に追いやった張本人でありながら、母親の死を通して徐々に何をすることが正しいか自分で判断し、最終的に宇宙で死にかけたピーターの命を救う。このシーンの構図がミケランジェロの『アダムの創造』を引用している点も面白い。アダムの名前である彼は、ミケランジェロの絵で言うアダムの位置ではなく、アダムに命を授ける神の位置にいる。つまりピーターに命を吹き込む行為は、その善の行いをする“新しい自分”に命を吹き込む意味もあるのだ。このアダムが体現する「セカンドチャンス」は、監督降板劇という苦い体験をしたジェームズ・ガン監督本人が、どうしても大切なことだとして本作で打ち出したメッセージのように感じた。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』©Marvel Studios 2023

 誰もがセカンドチャンスを与えられるべき。決してヒーローとは言えない問題児たちが銀河の守護者と呼ばれるようになったこの3部作は、惑星ノーウェアでのお祭り騒ぎで幕を閉じる。その場所ではかつてコレクター(ベニチオ・デル・トロ)という男が、自身のエゴで珍しい種の生き物を閉じ込めていた。そして今、そこは支配から逃れ自由を勝ち取ったものたちの街なのである。彼らのトラウマや傷の修復と重なる、ノーウェアの復興。傷が完璧に癒える日は来ないかもしれないけど、“Dog Days Are Over”、負け犬と呼ばれる日々は終わったのだ。

■公開情報
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
全国公開中
監督:ジェームズ・ガン
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:クリス・プラット、ブラッドリー・クーパー、ヴィン・ディーゼル、ゾーイ・サルダナ、カレン・ギラン、デイヴ・バウティスタ、ポム・クレメンティエフほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©Marvel Studios 2023

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