『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3』彼らの旅路を音楽とともに振り返る
※本稿には『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3』のネタバレが記載されています。
“ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーは帰ってくる”──たとえそうだとしても、私たちの知る“銀河のお尋ね者”こと負け犬たちの物語は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3』(以下『GotG3』)で幕を閉じた。ジェームズ・ガン監督が手がけたこの3部作は、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の中でも異彩を放つほど有終の美を飾ったと言えるだろう。私たちが共感し、愛し、心寄り添う存在だったガーディアンズのみんなの旅路が、それぞれどのように帰結したのか。劇中に登場する重要な音楽とともに振り返りたい。
ロケットと「Come and Get Your Love」(Redbone)
ロケット(ブラッドリー・クーパー)は『GotG3』の主人公と言っても過言ではない。今作で初めて彼の辛い過去──ハイ・エボリューショナリー(チュクウディ・イウジ)の生物実験によって生み出された“被験者:89P13”としての日々が明かされる。同じように実験されたカワウソのライラ、セイウチのティーフ、ウサギのフロアと過ごした時間と彼らが迎えた結末はあまりにも悲しい。虐げられ、否定され、奪われてきたロケットの物語は彼だけではなく、ガーディアンズの他のメンバーの過去とシンクロし、“みんなの”物語になった。このみんなには、私たち観客も含まれている。あんなに壮絶な経験をしたことはないけれど、ロケットが置かれてきた状況や感情というものがどんな形であれ理解できるからこそ、本作はシリーズの最終作としてだけでなく、一作の映画として観客に強いカタルシスを感じさせたのではないだろうか。
ロケットの初登場シーンは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の惑星ザンダーで賞金がかけられているピーター・クイル(クリス・プラット)を捕まえようとしていた時のこと。最初の頃は善行をすることに興味を示していなかったが、ピーターがロナン(リー・ペイス)を止めるために言った「俺たちは負け犬(多くを失った者たち)だ」のスピーチで考えを変える。それは、確かに自分も奪われ続けてきた立場として共感したからである。相変わらず“欲しいものは欲しい”という盗み癖は直らないが、その後、彼はガーディアンズのメンバーを本当に大事に思うようになった。その過程でヨンドゥ(マイケル・ルーカー)と特別な絆を築いたことも大切な思い出だ。だからこそ、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でサノス(ジョシュ・ブローリン)のスナップによって自分以外のガーディアンズのメンバー全員が消えてしまったこと(グルートを目の前で失ったこと)は『GotG3』で明かされた過去を踏まえると、彼にとって相当トラウマ的な体験だっただろう。『アベンジャーズ/エンドゲーム』でトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)とともに地球にやってきた唯一の顔見知りであるネビュラ(カレン・ギラン)と再会した時、2人が黙って手を握ったシーンが忘れられない。この時に生まれた2人の特別な友情は、今回の『GotG3』でもよりフォーカスされている。それはサノスとの戦いという壮絶な経験を一緒に乗り越えただけでなく、自分の身体を他者に改造され、望まない姿や存在に変えられてしまった者同士だから思い合える関係性なのだ。
そんなロケットが今回戦った相手は、生物に“完璧”を求めるハイ・エボリューショナリー。『GotG3』の冒頭でズーンを片手に聞くRadioheadの「Creep」に共感していたロケットは、自分のことを醜い存在だと思ってきたし、自身の人生を大切にしてこなかった。しかしハイ・エボリューショナリーと再び対峙した時、ガーディアンズのみんなと過ごし、大切にされてきた時間で得た気づきが彼に突きつけられる。“完璧を求めているのではない、ありのままの姿を否定しているだけだ”。それは、『GotG3』のポストクレジットシーンで、ロケットが新生ガーディアンズのメンバーにお気に入りの曲として紹介した、Redboneの「Come and Get Your Love」が呼応する。この曲を“自分のことが好きになれなかった”ロケットに響いていることが全てを物語っていると言えるし、それは第1作から一貫して歌われてきたテーマであることを改めて認識させる素晴らしい演出だった。
ネビュラと「I’m Always Chasing Rainbows」(Alice Cooper)
ロケットと特別な友情を築いたネビュラも、『GotG3』では特別な存在感を発揮していた。もともとサノスの娘として姉のガモーラ(ゾーイ・サルダナ)と顔を合わせるたびに殺し合ってきたが、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』で、戦いに勝ちたかったのではなく「いつも姉が欲しかった」ことを打ち明ける。この瞬間から彼女の人間性が表れ始めるのだが、同作のラストでは再びガモーラと別々の道を歩もうとする。棺の上で冷たく横たわったヨンドゥを見て「長い間必死に探し回っているものって、すぐそばにある」と言うピーターの言葉が心に響いた姉妹は互いに顔を見合わせた。そして去ろうとするネビュラに対し、ガモーラは彼女の気持ちに気づけなかったことを謝りながら、ネビュラのように苦しめられている子供たちを救う手助けをしてくれないか尋ねる。その時、ネビュラは「サノスを殺せば済む」と答えるが、ガモーラは「それでは済まない」ことを知っていた。
別れの瞬間に「ずっと私の妹よ」と告げられ、抱きしめられたネビュラは、恐る恐るガモーラを抱きしめ返す。しかし、その後2人が再会した時はネビュラがサノスから拷問を受け、それに耐えられなかった姉がソウルストーンの在り処へサノスを連れて行くことになってしまうのであった。ガーディアンズのメンバーは、みんな大切な何かを失った過去がある。この時、ようやく得た姉を失ったネビュラは『GotG3』でピーターに次いでガーディアンズを牽引する重要な役割を担った。映画全体で大活躍するだけでなく、これまでにないほど感情をあらわにしたネビュラは、本作におけるMVP的な存在だ。そしてハイ・エボリューショナリーの施設から、ガモーラが話していたような“苦しむ子供たち”を何人も背負いながら救う姿は、涙なしでは観られない。
ネビュラ役を演じたカレン・ギランも『GotG3』のサントラの中でお気に入りと言うAlice Cooperの「I’m Always Chasing Rainbows」は、人生が“競争”であると夢も自分も否定され続けた者が、それでも虹の彼方にある幸せを探し続けることを歌った曲だ。曲に重なる人生を歩んできたネビュラは、本作で姉が叶えたかった代わりに夢を果たし、ラストに子供たちに囲まれて笑みをこぼす。そこに彼女の“虹”があったと信じたい。
ガモーラと「Fooled Around and Fell in Love」(Elvin Bishop)
ガモーラの旅路は、“愛を探す時間”だった。ネビュラと同様、サノスの娘として育てられた彼女は目の前で実の両親を彼に殺されている。そして彼の強い戦力となることを強いられた姉妹は、普通の子供が得られたはずの青春時代も、誰かを信じる気持ちも奪われてしまったのだ。ガモーラはただ生き延びるために、子供の頃から妹でさえ信用しない、誰にも心を開かずに大人になった。そんな彼女が出会ったのが、ピーターとガーディアンズのメンバーである。めちゃくちゃな倫理観のメンバーに対し目を回したり、正しいことを言ったりと残酷なキャラクター性が崩れ、真面目さも垣間見えた第1作。惑星ザンダーの人々をロナンの虐殺から救ったことは、今思えばかつて自分の星を壊滅させたサノスに何もできなかった過去への償いかもしれない。
仲間と過ごす時間で誰かを信じ、信じられることの大切さを理解したガモーラは次第にピーターに惹かれるようになった。その大きなきっかけでもあり、“踊らないタイプ”だったガモーラが初めてリズムに身を任せることの心地よさを知るシーンで流れたのが、Elvin Bishopの「Fooled Around and Fell in Love」である。これは遊び人が本当の愛を知ったことを歌う曲で、ピーターからガモーラに向けられたラブソングだが、この曲が彼女を大きく変えた意味では彼女の曲でもある。
悲しいことに、本シリーズの中でガモーラは愛を知り、愛に殺される運命を辿ってしまった。ソウルストーンを得るためには“愛する者の命”を犠牲にしなければならない。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で、ガモーラはサノスが自分を愛しているなんて思ってもみなかったので、彼を石の在り処まで連れていく。しかし、本当は愛されていたことを知ると絶望し、必死に抵抗した。命だけでなく、最愛のピーターとの再会まで奪われてしまった一連の出来事は、ピーター自身にも精神的に大きな影響を与える。しかし、『アベンジャーズ/エンドゲーム』では、ガーディアンズに出会う前の時間を生きていたガモーラが再登場。ピーターと再会するも、彼が愛した彼女とは全くの別人だ。
『GotG3』がこの設定に対して払った大きな敬意を讃えたい。このガモーラは“あの”ガモーラではないことを、劇中で何度も強調している。第1作と同じように、ガーディアンズの面々と時間を共にすることで、彼らのことを好きになるし、ピーターのこともまた理解していく過程が描かれる。しかし、彼女が彼に再び恋に落ちることはない。もう海賊ラヴェジャーズという仲間やホームがあって、彼女なりに“愛を見つけた”人生があるのだ。ハリウッド映画お決まりの「男女のキスで終わるハッピーエンド」などのクリシェに抵抗し、別々の道に向かわせたジェームズ・ガン監督の選択からは、ガモーラというキャラクター本人が持つ考えや人生への尊重が伝わった。
ドラックス、マンティスと「Fairytale of New York」(The Pogues)
ドラックス(デイヴ・バウティスタ)は初登場の時から可哀想な過去を持つキャラクターだった。サノスに最愛の妻と娘を殺され、“ザ・デストロイヤー”として復讐を誓う。怒りや憎しみに満ちたキャラクターだったが、ガーディアンズと出会い、彼らと過ごした時間のおかげで再び“家族”を得ることができた。そういう意味でシリーズ3部作は、メンバーのみんなが失った“何か”を取り戻す過程を描いたとも言える。
そんな彼と特別仲良くなったのが、第2作で仲間になったマンティス(ポム・クレメンティエフ)だ。元々エゴ(カート・ラッセル)に仕えていた彼女は、それが間違いであることに気づき、ガーディアンズに忠告をしようとする。エゴが倒された後、彼の支配から解放された彼女は必然的にガーディアンズの一員となって旅を続けてきた。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では彼女がいなければ、サノスからガントレットを奪うことは不可能だった(結果的にピーターが怒りに任せて起こしてしまうけど)。それくらい実はかなり優れた戦闘力を持って活躍していたことも忘れてはいけない。
ドラックスとマンティスの関係は面白い。初対面の頃から彼女に「醜い」など酷いことを言うドラックスに対して、マンティスは「バカ」と言い続ける。その関係はまるで『マーベル・スタジオ スペシャル・プレゼンテーション:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル』の冒頭で流れたThe Poguesの「Fairytale of New York」で歌われる、お互いを罵り合いながらなんだかんだ愛し合うカップルのよう。しかし、彼らの関係が男女の異性愛ではなく、徹底して家族愛として大切に想い合う関係だったことも素晴らしい。
『ホリデー・スペシャル』では、これまで他のメンバーに比べてあまりスポットライトが向けられなかった2人が主人公になることで、彼らの良さがより際立った。しかし、『GotG3』ではドラックスがコメディリリーフな存在だったことをメタ的に指摘するなど、さらに深いところまで彼らについて触れられている。最終的にネビュラに「あなたに、ここにいてほしい」と言ってもらえるようになったシーンは、 “賢いだけが人の良さではないし、どんな人にもその人にしかできないことがある”というメッセージを含めて、ドラックスのキャラクター性、その存在意義を昇華した。そして、解放された子供たちに必要な存在として求められるラストは、娘を失い家族を求めていたドラックスの旅の美しい帰結を意味している。
マンティスがガーディアンズから抜ける決意表明も、結局のところエゴの求めることに従い、そのあとはガーディアンズが求める旅に参加していたことをキッパリと認めること自体がすごく正直で力強いシーンだ。みんなが旅を終えたのに対し、彼女はこれからようやく自分自身の旅路を歩めるのである。