『大奥』冨永愛と三浦透子が魂をぶつけ合った名シーン 吉宗が将軍の器を見極める

『大奥』冨永愛と三浦透子だからできた名場面

 若い男子を死に至らしめる赤面疱瘡が江戸で、再び猛威を振るい始める。どうにか死者を減らそうと奔走する八代将軍吉宗(冨永愛)。そうこうしているうちに3人の娘たちが成長し、今度は後継者選びに頭を悩ませることとなる。NHKドラマ10『大奥』第9話が、この2つのエピソードを通して映し出すのは「国を治める者の器」だ。

 前半に描かれた吉宗と赤面との戦いは、まさに私たちがこの3年間経験してきたものであった。正体不明で一切言葉の通じぬ未知のウイルスを前に人間は為す術もなく次々と命を落としていく。そのうち、この理不尽な仕打ちから生まれる不安や恐怖、怒りといった大きな感情に人々はそれぞれの対処法を見出す。これは神の祟りだ、誰かが仕組んだものなのだと何かしら腑に落ちる理由をつけようとする者、実は大したことない病であると高を括り始める者、発信元の分からぬ誤情報におどらされる者……様々。冷静に振り返ってみれば滑稽に思えるかもしれないが、渦中にいる時はどうにか希望を見つけようと必死になるものなのだ。

 吉宗が希望を見出したのは、進吉(中島裕翔)が見つけた赤面を一人も出していないという村に伝わる猿の肝だった。すぐさま吉宗は赤面に感染した者を小石川養生所に集め、猿の肝を使った効くかどうかも分からぬ薬を何かあったら自分が責任を取ると町医者・小川笙船(片桐はいり)に与えさせる。だが、結果的に吉宗は一か八かの大きな賭けに出て、赤面に敗北を喫することとなった。

 薬を飲んだ者たちの症状が一時的に治っていたのをみると、猿の肝には滋養強壮の効果が含まれていたのではないだろうか。ただ、赤面の特効薬にはなり得なかった。進吉が見つけ出した村も山深さゆえにたまたまウイルスが届いていなかったに過ぎない。結果的に進吉たちが持ち込んだウイルスにより村では感染が広がり、女性と同等の数いた男性が減少することとなる。このウイルスが都会から地方に広がっていくさまにも既視感があった。

 一国の長として何もできなかったことに打ちひしがれる吉宗。しかし、彼女が覚悟を決めて赤面撲滅に挑んだ姿に突き動かされたものがいる。笙船と進吉だ。笙船は「赤面がいかにして人を死に追いやるのか、その道筋を突き止めたい」と引き取り手のない遺体の検分、進吉はこの国の薬が効かないのであれば、異国の薬に薬に当たってみたいと吉宗に進言する。どんなに悔しさを味わおうとも諦めぬ心さえあれば、戦いは終わらない。これにより吉宗は異国の書物の受け入れを解禁し、国の事情を気取られぬために男子のみではあるが蘭学の学びを許可した。以降、日本の医学は大きく発展していくこととなる。いやはや吉宗が洋書の輸入制限を緩めた史実も織り交ぜ、さらに秋から放送されるシーズン2の医療編に繋げる見事な構成だ。

 さて、こうして将軍として様々な改革に取り組んできた吉宗だったが、ついに自分の後継を選ぶ時が訪れる。慣例に従えば、次の将軍は長女である家重(三浦透子)だったが、少々問題があった。家重は言語が不明瞭で身体も思うように動かすことができない(史実では脳性麻痺だった疑いがある)。その苛立ちを家臣にぶつけ、また男と酒に溺れていく家重に周囲は困り果てていたのだ。誰もが口々に次女の宗武(松風理咲)こそが次の将軍に相応しいとする中、日頃から家重に苦労をかけられているはずの小姓たちだけは違った。

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