『大奥』冨永愛と三浦透子が魂をぶつけ合った名シーン 吉宗が将軍の器を見極める

『大奥』冨永愛と三浦透子だからできた名場面

 小姓頭の大岡忠光(岡本玲)はもとより、新たに家重の小姓に就任した龍(當真あみ)も最初こそ彼女の奔放さに振り回されながら次第にあることに気づく。それは家重が実のところ相当に頭の切れる人間であり、ゆえに周りの者たちから向けられる悪意に満ちた批評にも気づいていることだ。伝えたいことがあるのに上手く伝えられぬ歯がゆさ、それを理解してもらえないことへの苦しみや憤り。優秀な将軍である吉宗に対するコンプレックスもあるだろう。そんな母親の前で粗相をしてしまう恥ずかしさや情けなさも含め、家重が全身から発する叫びに心が軋んだ。家重が幸運だったのはそれに気づいてくれた人たちがいたこと。龍を通して「自分は役立たずだから死にたい」という家重の思いを知った吉宗は、それを裏返してこう解釈する。「生きるなら人の役に立ちたい」と。

「将軍の器とは、他のものを思う心の有る無しであると私は考えております」

 久通(貫地谷しほり)が言う将軍の器を家重は持っていた。赤面のこともそうだが、将軍は常に世の困り事に振り回され、失敗したら非難され、辛くとも投げ出すことが許されない。それでも権力欲しさではなく、民のために全力を尽くしてきた吉宗の責任感の強さと思いやりを家重は胸の内に秘めていたのだ。自分の思いを伝えるため、公の場では披露できなかった杜甫が詠んだ漢詩『絶句』を読む家重。その瞬間、家重が後継として相応しいかどうかを見定める吉宗の表情が母の顔に変わる。

 そして、「跡を頼めるか? 家重」と家重を抱きしめる吉宗。その優しい声と慈愛に満ちた抱擁、家重の堰を切ったように流れる涙が心にじんわりとした温かさを広げる。冨永愛と三浦透子が魂をぶつけ合い、生まれた奇跡のような名シーンだった。

■放送情報
ドラマ10『大奥』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送
出演:福士蒼汰、堀田真由、斉藤由貴、仲里依紗、山本耕史、竜雷太、中島裕翔、冨永愛、風間俊介、貫地谷しほり、片岡愛之助ほか
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
制作統括:藤並英樹
主題歌:幾田りら
音楽:KOHTA YAMAMOTO
プロデューサー:舩田遼介、松田恭典
演出:大原拓、田島彰洋、川野秀昭
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社

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