『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』しずかちゃんの名言は今を生きる指針に

『映画ドラえもん』しずかちゃんが放った名言

 未来を科学的に想像するSFは、後の現実をピタリと言い当ててしまうことが少なからずある。SFをこよなく愛した藤子・F・不二雄が生み出した作品にもよく、現実になってしまった未来が登場した。漫画『大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争』を原作にした『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』もそのひとつ。物語の中で繰り広げられる戦いの様子と、そんな戦いに向き合う登場人物たちの思いが、今の世界の状況にピタリと重なって、自分にも何かできることはないかと思わせる。

 のび太がスネ夫やジャイアン、出来杉たちと特撮映画を作っていた現場に宇宙船が落ちて来た。のび太が家に持ち帰ったその宇宙船から小さな人が降りてきて、パピと名乗り、故郷のピリカ星で将軍のギルモアが起こした反乱から逃げてきたことを明かした。のび太たちはパピをかくまおうとするが、ピリカ星から追ってきた情報機関のドラコルル長官に見つかってしまう。これが『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』の前半に繰り広げられるストーリーだ。

 原作となった漫画『大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争』の連載が始まった1984年や、元になった長編アニメ『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』が公開された1985年は、『スター・ウォーズ』がSF特撮映画の中心的な位置にあった時代。パピを助け、独裁者を相手にのび太やドラえもんたちが挑むというストーリーは、そのまま『スター・ウォーズ』の反乱軍と帝国軍との対立の構図にあてはまる。

 その構図も、古今東西の物語によくあるもので特別に珍しい設定ではない。そもそも『スター・ウォーズ』自体が1930年代に新聞に連載された漫画や、それを原作とした映画『フラッシュ・ゴードン』に影響を受けている。ちなみに『フラッシュ・ゴードン』は1980年にQUEENの主題歌でリメイク版が作られ話題になった。3月31日から4K版が上映される予定で、どのような内容なのかを確かめる絶好のチャンスだ。

 ただ、『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』の場合は、公開された時期が問題だった。普遍的で啓発的な物語だったこの映画を、今という時代を過去からピタリと言い当てたものにした。公開日である2022年3月4日のほぼ1週間前の2月24日に、ロシアが隣国のウクライナに侵攻したからだ。本来なら、2021年3月に公開予定だったものが、新型コロナウイルス感染症の流行で延期となったことで、紛争直後の公開となったが、予定通りだったら1年後に起こる事態を見事に言い当てていたことになる。企画した側も驚いただろう。

 不幸な事態を予言していたのなら、結末も藤子・F・不二雄が原作も漫画に描き、映画にも描かれたような結末に至って欲しいと期待したくなる。ただ、残念なことに紛争が始まって1年が経った今も、ウクライナとロシアとの間で戦いは続いている。そうした状況に、映画の中でのび太やドラえもんたちがとったように、現地へと乗り込んでいって一緒に戦いたいと言えるかというと、そこはなかなか難しい。誰かの命を奪うのも、自分の命が奪われるのも恐ろしいからだ。

 ギルモア将軍を打倒しにピリカ星へと向かうジャイアンが、持ち前のキャラクター性を発揮して意気揚々としているのとは対照的に、スネ夫は「これはパピくんの問題なんだ。どうしてぼくらが……」とつぶやいて、ピリカ星へと乗り込むことを嫌がる。「だってそうでしょう!? ぼくは兵隊でもないのに、はっきり言って迷惑なんだよ!」というスネ夫の気持ちを、軟弱者だといって誹ることができるかというと、むしろそちらに傾くのが少なくない人の思いだろう。

 ただ、何かをしなければいけないという気持ちも同時に抱いている。支援する募金が行われていたら寄付をする。逃げてくる人がいれば温かく迎え入れる。政治家だったら国をあげてそうした支援もできるだろう。経済面からの圧力だってかけられる。それが難しい個人でも、できることはきっとあると考えることが大切だ。

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