鈴鹿央士の引き出しの多さに驚嘆! 『映画ドラえもん』で成立させた“揺らぎ”のある人物像

『映画ドラえもん』鈴鹿央士の声の演技に驚嘆

 最近ではアニメに実写俳優が出演する機会が増え、ゲスト声優はもちろん、メインキャラクターに起用されることも珍しくなくなってきた。とくにここ数年は、ゲストといっても一言二言のちょい役ではなく、物語の中心を担うような重要な役どころでの参加も目立っており、俳優たちの“声の芝居”に自然と観客の注目も集まるようになってきている。

 そんな中、「鈴鹿央士の声が良いらしい」と聞きつけて観に行ったのが『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』。物語は、ひみつ道具「はいりこみライト」で絵の中に入り、探検するという、いかにもドラえもんらしいワクワクする設定だ。のび太たちがミュシャやムンク、円山応挙、尾形光琳といった名画の世界をくぐり抜けていくオープニングから、映像の華やかさに満ちていて、一気に映画の世界観へと引き込まれていく。

 鈴鹿央士が演じるのは、アートリア公国の美術商人・パル。絵の売買を生業にする、城にも出入りしている人物だが、どこかつかみどころがない。柔らかな物腰に優しげな口調、それでいて、序盤から中盤にかけては、観ている側としても「この人、本当に信用して大丈夫?」と少し構えてしまうようなどこか得体の知れない雰囲気をまとっている。

 鈴鹿央士といえば、映画『蜜蜂と遠雷』や『silent』(フジテレビ系)、そして松本穂香とともに月9初主演を務めた『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)など、さまざまな実写作品に出演しており、そうした中では、優しくて繊細な“好青年”というイメージが強い。だからこそ、今回のパル役はとても新鮮に映った。もともとの柔らかい声質を活かしながらも、どこか煙に巻くようなトーンや、絶妙な“間”の取り方が、信用できそうでいて、どこか引っかかる。そんな“揺らぎ”のある人物像を、セリフのリズムや抑揚でごく自然に立ち上げていたのが印象的だった。

鈴鹿央士が声優を務めたパル

 しかもこのパル、ただ怪しいだけでは終わらない。物語が進むにつれて、コミカルな一面も顔を出してくる。のび太に「ころばし屋」で転ばされるシーンなどは完全にギャグパートで、ちょっと抜けたところもあるキャラクターだということが分かる。バチバチに決めた美男子キャラではなく、ふわっと優しくて、それでいてどこか胡散臭い。この“絶妙なゆるさ”こそが、鈴鹿の声の持ち味としてうまく作用していた。パルの台詞の中でも、作品の大きな伏線にもなっている「不思議の国のアリスちゃん」のような余白のあるセリフがきちんと届くのは、声の芝居が成立しているからこそだと思う。

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