『探偵ロマンス』時代への叫びのように聞こえた世古口凌の歌唱 “毒”が作品を表すテーマに

『探偵ロマンス』“毒”が作品を表すテーマに

 『探偵ロマンス』(NHK総合)第3話は、バラバラだったパズルのピースが少しづつハマり出し、物語の核心に迫っていくような回である。

 まず、今回で廻戸(原田龍二)殺しの真犯人が明らかになる。それが中性的な魅力を持つお百(世古口凌)。A公園のオペラ館で人気を博している舞台『華炎城の舞姫』のヒロインを務める踊り子だ。怪盗からの殺害予告状があった公演で、お百は外務次官の後工田寿太郎(近藤芳正)に銃を向ける。

 お百の奥底に眠っているのは、他者を超越した世界への怒りと諦めにも似た悲しみ。「分からない」「理解されない」――女性でもない、男性でもない、お百を表す言葉は大正時代当時にはなかった。背中の大きな火傷の跡の如く、お百の心は焼け爛れていたのだ。今の自分をきちんと見つめてほしいという思いは、いつしかこんな世界は全て壊れてしまえばいいという苦しみを他人にぶつける殺人衝動へと変貌してしまった。

 そんなお百の前に現れたのが、駆け出しの推理小説家・平井太郎(濱田岳)だった。性別ではなく、お百はお百だと肯定してくれる人。「きっといつか時代は変わる。僕が物語を書きます。言葉が世界をつくるから。思いは伝播していくから」と太郎はお百を小説の物語に登場させることを約束するが、お百の「その時代はいつ来るの?」の問いに太郎は答えることができなかった。何が正解だったのか、どうすればお百を救うことができたのか。お百の「先生の小説が世に出るのを楽しみにしてるね」という言葉を最後に、太郎は後悔と他者の世界に深く踏み入れることへの恐怖を覚えることとなる。

 第3話で印象的なのは、お百がお百自身の声で歌い出すシーンだ。〈生まれた時代世界 私ではない 私で出会えたら そんな そう夢見てたの〉と唄い手(上白石萌音)の歌劇に続き、お百は〈叶わぬ願いならば 私は許されぬ まぼろし 夢は 夢ならば〉とアカペラで歌唱する。たとえ声変わりが終わっていても、自分自身の声で歌いたい。歌詞ともシンクロする、それは世界への、時代への叫びのように聞こえた。感情の揺れ動きが見える世古口凌の歌唱演技も特筆すべきポイントだ。

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