サッカーアニメ&マンガの主人公の“ポジション”を通じて考える、日本代表の立ち位置

 戦前の「盛り上がりは下火」的な雰囲気はどこへやら。FIFAワールドカップカタール2022が始まり、4年に一度の格別な悲喜こもごもを堪能している読者も多いでしょう。そんなワールドカップの開催年にふさわしく、2022年はサッカー関連のアニメが充実していました。そこで今回は、サッカーのアニメやマンガの主人公のポジションを軸に日本サッカーの流れを振り返ります。

『キャプテン翼』の影響で日本の名手が中盤に集中

 それ以前にももちろんサッカーを扱った作品はありましたが、初めて日本中の若者を熱狂させたと言えるのは高橋陽一先生によるみなさんご存知の『キャプテン翼』。「ボールは友達」が信条のサッカー少年・大空翼が主人公の同作は、1981年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まり、現在まで40年以上もシリーズが続く大人気作。メディアミックスも幾度も行われ、1983年から1986年まで放送されたTVアニメは最高視聴率20%以上を記録するほどの支持を得ました(なおTVアニメ化は4回。2018年版は丁寧でクオリティも高く原作未読の人にもおすすめ)。

 この『キャプテン翼』の主人公・翼のポジションは、小学校時こそフォワードでしたが中学生になって攻撃的ミッドフィルダーへと転向。この影響で『キャプテン翼』を読んでサッカーを始めたという中田英寿を筆頭に、『キャプテン翼』リアルタイム世代には中村俊輔、小野伸二、遠藤保仁、中村憲剛といった好ミッドフィルダーが多数生まれたのではというのはサッカー好きの間ではよく語られる説です(そしていわゆる“決定力不足”の話につながる)。その一方で、2018年に現役を引退したゴールキーパーの川口能活は翼の最初のライバルである若林源三や若島津健への憧れと影響を語っており、作品の影響の強さを感じさせます。

 ちなみに『キャプテン翼』は海外人気も高く、同作を観て、読んで影響を受けたという名手も、ジネディーヌ・ジダンやフランチェスコ・トッティ、アンドレア・ピルロ、メスト・エジル、そしてアンドレス・イニエスタなど枚挙にいとまがありません。もちろん選手だけでなくファンにも愛されているようで、2021年にUEFAチャンピオンズリーグが公式Instagramで「日本人選手で最初に思い浮かぶのは?」と投稿すると、現実の選手を抑えて翼が一番の票を集めたという逸話もあります。

監督を主人公に据えた『GIANT KILLING』

 それ以降も数々のサッカーアニメやマンガが生まれますが、それらの主人公の多くは攻撃的なポジションでした(そう考えると1987年に連載が始まった『オフサイド』の主人公が当初ゴールキーパーだったのはすごい)。その傾向から大きく逸脱したヒット作が、2007年に連載が始まったツジトモ先生による『GIANT KILLING』。弱小プロチームの監督を主人公に、フィールド内の話だけでなく、クラブ運営やサポーターの存在なども大きく扱う異色作でした。

 この作品が生まれ、そして熱烈なサッカーファン以外にも受け入れられた背景には、日本におけるサッカーの存在感の変化があるでしょう。1993年のJリーグ開幕と全国津々浦々におけるプロサッカークラブの誕生、そして2002年のFIFAワールドカップ日韓大会の開催は、多くの国民にとってサッカーを日常的なものにしました。

 こうしたサッカーのメジャー化によってフィールド外の話もグッと身近になり、それをフィーチャーした作品も生まれ始めます。2010年代以降はサポーターやスタジアムグルメ(を食べ歩く女性陣)、はてはホペイロ(用具や身の回りのものを管理・ケアするサポート係)や代理人がメインのネタのマンガが誕生。これと並行してフィールド内がメインの作品としては、ゲーム発のアニメながらゴールキーパー(のちにリベロに転向)が主人公の『イナズマイレブン』が大ヒットします。ほかにも2011年のFIFA女子ワールドカップドイツ大会におけるなでしこジャパンの優勝後には、女子サッカーを題材にしたマンガも増えてサッカーアニメ(マンガ)の多様化を感じさせてくれました。

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