『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』オリヴィア・クックの“駆動力” 物語は“双竜の舞踏”へ

『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』脚本家陣の功績

#ハウス・オブ・ザ・ドラゴン #HouseOfTheDragon いよいよ第9話である。『ゲーム・オブ・スローンズ』ではシーズンフィナーレ直前の第9話に物語の重要な局面となるショッキングなエピソードが用意されてきた。それだけに『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』もこの伝統に倣うのかとファンは身構えてしまうところだろう。

※本稿には『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』第9話のネタバレを含みます。

 今回、第9話のメガホンを取るのは第4話、第5話で洗練された手腕を見せたクレア・キルナー。今やトレードマークとも言える目線とミザンスの演出で陰謀劇を緊迫させ、城下に降りればスケールの大きい群衆演出で圧倒する。彼女の手にかかれば見慣れたロケーションも目新しく(今までレッドキープの厨房にまで下りたカメラがあっただろうか)、思わず身を乗り出してしまうようなショットの連続だ。ぜひともシーズン2へ続投していただき、今度は大規模合戦シーンを観たいと思うのは筆者だけではないだろう。

 深夜、アリセント(オリヴィア・クック)の元にヴィセーリス王(パディ・コンシダイン)崩御の報せが届き、緊急の小評議会が招集される。これがウェスタロスの歴史において後に“翠の評議会”と呼ばれる王位簒奪の謀議だ。アリセントはヴィセーリスの今際の言葉を長男エイゴン王子(トム・グリン=カーニー)への王位継承と信じ込み、これを聞いた“王の手”オットー・ハイタワー(リス・エヴァンス)はかねてより計画していたクーデターを実行に移す。徹底した情報統制と一刻も早いエイゴンの戴冠、そしてレイニラ(エマ・ダーシー)の暗殺だ。アリセントは我が子の即位を願いながらも、和解し旧交を温めたばかりの幼なじみを手にかけることができない。肝心要のエイゴンの行方が知れない中、アリセントはクーデター計画の主導権を得ようと画策する。

 初めて主人公レイニラが登場しない第9話はクーデターに直面した人々の群像ドラマでもある。ある者は毅然と抗議の声を上げ、ある者は屈することなく立ち続け、ある者は正義を成そうとするが、いずれも命を落とす。エイゴンを探して城下を彷徨う双子の騎士カーギル兄弟は、王子のサディスティックな正体を知るや隷属か反抗かと対立し、傲慢なエイモンド・ターガリエン(ユアン・ミッチェル)は暗愚の兄よりも自分こそが王位に相応しいと野心を剥き出しにする。情報網を張り巡らし、王宮の動静を監視し続けてきた“白蛆”ことミサリア(ソノヤ・ミズノ)はオットーを前に「あらゆる権力は民が許し、与えるものです」と言う。原作小説『炎と血』には登場しないこのキャラクターと台詞には、2021年に連邦議事堂襲撃というクーデターを経験したアメリカならではの実感がある。ほとんど歴史研究書のような体裁の原作からエピソードを抽出して、キャラクターとドラマを作り出した脚本家陣の功績は大きく、兵士たちに追い立てられるがまま戴冠式会場へ誘導される民衆の姿は象徴的だ。正統な王位継承者のレイニラではなくエイゴンの即位を告げられた彼らは反発するでも賛同するでもなく、何かを拍子に同調して歓呼の声を上げる。そんな衆愚をドラゴンが許すはずもない。

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