『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』オリヴィア・クックの“駆動力” 物語は“双竜の舞踏”へ

『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』脚本家陣の功績

 レイニラの不在はアリセントこそが最も複雑なキャラクターであることも浮き彫りにしている。素晴らしいイヴ・ベストが演じるレイニス・ヴェラリオンとアリセントの邂逅は本エピソードの静かなハイライトだ。アリセントはレイニスのドラゴン“メレイズ”を翠装派の戦力に加えれば、レイニラを交渉の場に着かせ、処刑から救うことができるかも知れないと考える。女であるがゆえに玉座から遠ざけられた“戴冠せざりし女王”を前に、夫ヴィセーリスを凡愚と認め、レイニスこそが王位に相応しかったと共感を示す。しかしレイニスは「自分が王座につくのを夢見たことはないの?」と言う。アリセントは居並ぶ男たちに「黙らなければ壁送りにするぞ」とまで言える力を持っているが、一方ではさらなる権力掌握のためにラリスの慰みものになることを受け入れている(アリセントが素足を投げ出す場面はシーズン1で最もグロテスクな瞬間だ)。どんなに抗っても男たちの作ったルールからは脱しようとしないアリセントを「監獄から逃れるのではなく窓を作っている」とレイニスは断じるのである。アンビバレントな葛藤を演じるアリセント役のオリヴィア・クックは、本作の駆動力とも言うべき存在感だ。

 終幕、レイニスはそんなアリセントら叛逆者にとどめを刺すことなく立ち去る。原作小説では戴冠式は滞りなく執り行われ、レイニスもドラゴンも登場しない。レイニラが「暴君にはならない」と言い、アリセントが「残虐になってはいけない」と諭したように、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のヒロインたちは男が築いた血と暴力の歴史に反発するかのように踏み留まる。それはシリーズ最終盤でヒロインが凶行に走った『ゲーム・オブ・スローンズ』への反証にも見えるのだ。レイニスのキングズランディング脱出により翠装派のクーデターはレイニラら黒装派の知るところとなる。ついに物語はターガリエン家によるウェスタロスを二分する内戦、後に言われる“双竜の舞踏”へと突入する。

■配信情報
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』
U-NEXTにて配信中
出演:パディ・コンシダイン、マット・スミス、オリヴィア・クック、エマ・ダーシー、スティーヴ・トゥーサント、イヴ・ベスト、ファビアン・フランケル、ソノヤ・ミズノ、リス・エヴァンス、ミリー・オールコック、ベサニー・アントニア、フィービー・キャンベル、エミリー・キャリー、ハリー・コレット、ライアン・コア、トム・グリン=カーニー、ジェファーソン・ホール、デヴィッド・ホロヴィッチ、ウィル・ジョンソン、ジョン・マクミラン、グレアム・マクタヴィッシュ、ユアン・ミッチェル、テオ・ネイト、マシュー・ニーダム、ビル・パターソン、フィア・サバン、ギャビン・スポークス、サバンナ・ステイン
日本語吹替版キャスト:早見沙織(レイニラ・ターガリエン役)、津田健次郎(デイモン・ターガリエン役)、堀内賢雄(ヴィセーリス・ターガリエン役)、大塚芳忠(オットー・ハイタワー役)、坂本真綾(アリセント・ハイタワー役)、大塚明夫(コアリーズ・ヴェラリオン役)、田中敦子(レイニス・ヴェラリオン役)、諏訪部順一(クリストン・コール役)
共同企画・製作総指揮:ジョージ・R・R・マーティン
共同企画・共同ショーランナー・製作総指揮・脚本:ライアン・コンダル
共同ショーランナー・製作総指揮・監督:ミゲル・サポチニク
製作総指揮・脚本:サラ・ヘス
製作総指揮:ジョスリン・ディアス、ヴィンス・ジェラルディス、ロン・シュミット
監督:クレア・キルナー、ジータ・V・パテル
監督・共同製作総指揮:グレッグ・ヤイタネス
原作:ジョージ・R・R・マーティン『炎と血』
原題:House of the Dragon
翻訳:川又勝利、佐々井朝衣
©2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.
公式サイト:https://www.video.unext.jp/title_k/house_of_the_dragon

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