『ゲーム・オブ・スローンズ』ファンの期待の全てが揃った『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』
まずは安心してほしい。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』には『ゲーム・オブ・スローンズ』ファンの期待する全てが揃っている。我々をターガリエン王朝時代のウェスタロスへと誘う一級の美術、衣装、ダークで美しい撮影、血しぶきたっぷりのアクション、ラミン・ジャヴァディによるお馴染みのテーマ曲も健在だ。そして3年ぶりにTV(いや、携帯か?)の画面をドラゴンが舞う。筆者は幸運にも第1話を映画館のスクリーンで観る機会に恵まれたが、圧倒的な画面の密度に魅せられっぱなしだった。
しかも第1話の監督はミゲル・サポチニクだ。『ゲーム・オブ・スローンズ』屈指の傑作回であるシーズン6の第9話「落とし子の戦い」他、大スペクタルの合戦シーンと重要エピソードを手掛け、シリーズの評価を決定付けた“看板監督”である。これまで主にシーズンのクライマックスを任されてきた彼がトップバッターを務めることに、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』が『ゲーム・オブ・スローンズ』の高みまで一気に飛翔しようとしていることが伺える。今シーズンは他3名の監督がアナウンスされており、個人的には3エピソードを手掛けるグレッグ・ヤイタネスに注目している。数々のヒット作を手掛けてきたベテラン職人監督で、中でも1970年代を舞台にした『クォーリーと呼ばれた男』はディープな心理描写が光る傑作ノワールだった。
そう、シリーズの最大の魅力は欲望渦巻く権謀術数と、過酷な運命に立ち向かう人々の人間ドラマだ。『ゲーム・オブ・スローンズ』は開始当初、ビッグネームはエダード・スターク役のショーン・ビーンただ1人だったが、その後キット・ハリントンやエミリア・クラークら多くの人気スターを輩出し、今や話題作には必ず“ゲースロ”出身俳優が顔出すと言っても過言ではない。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は大ヒットシリーズの続編とあってか、既に知名度のある俳優と新鋭が混在するキャスティングが特徴的だ。
ウェスタロスを統治するヴィセーリス王役のパディ・コンシダインは、どちらかと言えば市井の人々を演じてきたイメージの強いイギリスの性格俳優。そんな“善人”が良き王になるとは限らないのがウェスタロスのセオリーだけに、今後の波乱が彼の決断によって引き起こされるのは間違いない。その王を補佐する“王の手”オットー・ハイタワー役のリス・エヴァンスには驚かされた。筆者はエンドクレジットを見るまで彼とは気付かず、「権謀術数の“時代劇”にはこの手の渋いベテランが必要不可欠だよなぁ」と感嘆しきりだった次第である。注目したいのは継承権を巡って彼らと対立する王弟デイモン・ターガリエンに扮したマット・スミスで、野心的で残忍な荒くれぶりにラムジー・ボルトン以来の悪役になるのではと期待が高まる。