『カムカムエヴリバディ』は朝ドラの基本に原点回帰? ラジオと朝ドラの深い関わり

『カムカムエヴリバディ』で朝ドラの原点回帰

 『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 カムカムエヴリバディ Part1』(NHK出版)に収録された「制作者からのメッセージ」の中で、チーフ演出の安達もじりは「どんどんドキュメンタリーを撮っている感覚に近づいています」と語っているが、本作が戦前のドキュメンタリーのように感じるのは、ラジオの音声が、当時の時代状況を客観的に伝える役割を果たしていることが大きいのではないかと思う。

 登場した時は大きな箱だったラジオ受像機が、やがて小型のトランジスタラジオとなり、令和の現在は、インターネットを経由してパソコンやスマホで聴くようになっているというテクノロジーの変遷がもたらすラジオの変化が描かれれば「人とメディアの関わり方の変化」という隠し味が物語に生まれるかもしれない。

 最後に、本作が要注目なのは脚本を担当するのが藤本有紀だということだろう。

 藤本は大河ドラマ『平清盛』や近松門左衛門の生涯を描いた『ちかえもん』といったNHKのドラマを執筆して高い評価を受けている脚本家だ。執筆本数は決して多くはないが、どの作品も細部まで丁寧に作り込まれており、放送終了後も多くのファンに愛される息の長いものとなっている。

 そんな藤本の評価が決定的なものとなったのが、2007~08年にかけて放送された朝ドラ『ちりとてちん』だろう。貫地谷しほりの出世作として知られる本作は、マイナス志向のヒロインが大阪で落語家を目指す物語で、落語とリンクした完成度の高い脚本が高く評価された。放送当時は決して高い視聴率ではなかったが、熱心なファンを生みDVD-BOXの売上は過去最高を記録。今でも語り草となる朝ドラの古典で、2010年代以降の朝ドラ大躍進は00年代の『ちゅらさん』と『ちりとてちん』が準備したと言っても過言ではない。

 そんな藤本が13年ぶりに朝ドラを手掛けるのだから、ドラマファンとしては否が応でも注目してしまう。一見、地味でシンプルな朝ドラだが、チャップリンの映画を筆頭に、すでに後の展開につながりそうな種が節々に仕込まれている。ラジオ番組のように日常生活の中に自然と溶け込んでいく朝ドラとなりそうである。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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