『カムカムエヴリバディ』は朝ドラの基本に原点回帰? ラジオと朝ドラの深い関わり
11月に入り、新しいNHKの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『カムカムエヴリバディ』の放送がスタートした。
物語は日本でラジオ放送が始まった1925年(大正14年)3月22日に橘安子が生まれる場面から始まり、ラジオ放送がはじまって100年の歴史を、安子(上白石萌音)、るい(深津絵里)、ひなた(川栄李奈)による親子三代の物語として紡いでいく。
まず、はじめに描かれるのが安子の物語。ラジオから流れる英会話を通して英語に魅力に目覚めていく安子の姿が、彼女の初恋といっしょに語られる。
前作『おかえりモネ』(NHK総合)が、現代を舞台にした既存の朝ドラにない要素をふんだんに盛り込んだ意欲作だったのに対し、大正末からはじまり戦時下に向かう日本の空気を背景にしている『カムカムエヴリバディ』は、朝ドラの基本に原点回帰したかのようにみえる。何より素晴らしかったのが安子を演じる上白石萌音の芝居。満面の笑みの中にぼんやりとただよう不安げな表情が妙に印象に残る。昨年放送された『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)の好演が高く評価された上白石だが、これまで朝ドラヒロインを演じてなかったことが嘘のように、朝ドラの世界に馴染んでおりまったく違和感がない。上白石の大きな目と素朴で明るい笑顔を見ているだけでも序盤は楽しめそうである。
また、本作の裏主人公と言えるのが、安子と同じ年に放送が始まったラジオだろう。
『おかえりモネ』の終盤が、ヒロイン・モネ(清原果耶)がコミュニティFMのパーソナリティーになるというラジオにまつわる展開だったこともあってか、ラジオ放送開始からスタートする『カムカムエヴリバディ』の冒頭を観た時は、時間が一巡したかのような不思議な気持ちになった。
そもそも朝ドラとラジオは関わりが深い。毎話15分の物語をナレーションを多用することで伝えるスタイルは、音声で物語を進めていくラジオドラマに由来するもので“聴く”物語として朝ドラは発展してきた。第一作となった『娘と私』はラジオドラマが原作で、ラジオドラマで大ヒットした『君の名は』も1991~92年に朝ドラとして放送されている。『エール』や『おちょやん』といった近年の朝ドラにラジオドラマが登場したのも、ある種のオマージュだと言えるだろう。
安子が英語の面白さに目覚める英語講座はもちろんのこと、お笑い、野球中継、音楽、天気予報、時局を伝えるニュースといったあらゆることがラジオから流れてくる。本作を観ていると戦前のラジオが、庶民にとって身近な情報源であったことが伝わってくる。
英語による「むかしむかし」という語りから始まる城田優の落ち着いたナレーションと同様、ラジオから流れてくる様々な音声が、本作の時代背景を伝えるナレーションと同じ役割を果たしていると言えるだろう。