ハリウッドで実写映画化決定『メイドインアビス』 “トラウマ系”だけにとどまらない面白さ
2021年6月、アメリカのオンラインマガジン・Deadlineが、『メイドインアビス』の実写映画化を報じた。『メイドインアビス』とは、WEBコミックガンマで連載している、つくしあきひと氏によるダークファンタジー漫画で、2017年には『メイドインアビス』としてテレビアニメ化。2020年には『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』が公開し、2022年にはテレビアニメ第2期『メイドインアビス 烈日の黄金郷』の放送が予定されている。
先日Twitter上で、前述の『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』を視聴した漫画家の赤松健氏が 「『他人の感情を揺さぶる』創作物の素晴らしさ恐ろしさを垣間見た。」、森川ジョージ氏が「事故った。貴重な休載の時間がトラウマアニメで終わっていく...。おのれ...。」と感想をあげて話題になったことは記憶に新しい。
このように国内外の注目を集め、評価の高い『メイドインアビス』だが、なぜこれだけ心に刺さるのだろうか? 本稿ではアニメ版を基点として考えていきたい。
隅々まで探索されつくした世界で唯一残された秘境「アビス」。どこまで続くともしれない巨大なその縦穴の中には、奇妙な生物たちが生息し、現在の人類では作りえない貴重な遺物が眠っている。奥底に潜れば生きては帰れない。その危険を承知でアビスの謎に挑む冒険者たちは、やがて「探窟家」と呼ばれるようになった。
そして生き別れた母のような偉大な探窟家になることを夢見ていた少女リコは、アビスの探窟中に出会った少年の姿をした記憶喪失のロボット・レグと、アビスの深層への冒険の旅に出る......。
あらすじと牧歌的ともいえるキャラクターの外見だけを見れば、児童向けの冒険物語と捉えるかもしれない。だが『メイドインアビス』の世界には、そうしたファンタジーに見られる都合のよい魔法や奇跡はない。遺物こそ存在するものの、アビスに住む生物たちは獰猛で、冒険は常に死と隣り合わせだ。
一部ネタバレになってしまうがテレビ第1期10話「毒と呪い」に、『メイドインアビス』の世界観を象徴しているようなひとつの決断がある。深界第四層で原生生物タマウガチに襲われたリコは、レグに毒に冒された自分の腕を切り落とすように頼む。それも肘から先の途中を、骨を折って。肘の関節が残っているのとないのとでは、今後の探窟でできることの幅が大きく変わってくるからだ。レグは苦悩しながらも、リコの言葉を受けて、腕を折る。
『メイドインアビス』には、こうした痛みを感じる描写が多い。それは肉体的な痛みに限った話ではない。アビスの呪いによって異形の「成れ果て」となってしまったナナチやミーティ、『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』で描かれる黎明卿ボンドルドとその娘プルシュカの狂気と愛の成果。これらを指してグロ系、トラウマ系と呼ぶ人もいる。だがきちんと全編を観れば、それが生き残り、冒険を続けるための痛みであることに気づくだろう。